「思っていた仕事と違う」――希望して異動したはずなのに、現実とのギャップに直面する。社員のキャリア自律を促すはずの社内公募制度が、なぜミスマッチと離職を生むのか。リクルートワークス研究所の千野翔平さんに聞いた。

希望が叶ったのにパフォーマンスが低下

各社の採用募集サイトを見ていると、「社内公募制度」を売りの一つにしている企業をよく見かけるようになりました。実際、従業員300人以上の規模を持つ会社の約4割が導入しているとされています。

社内公募制度とは、人材を募集している部署の求人を社内に公開し、それを見た社員が自ら手を挙げて応募する仕組みです。会社にとっての利点は2つあります。1つ目は、意欲のある社員が自ら応募するため、人材配置を最適化でき、本人の納得感も高まること。2つ目は、社外へ移る前に社内で新しい仕事に挑戦してもらえるので、人材の流出を防げる可能性があることです。

社員の側にもメリットがあります。希望する仕事に就ける可能性が開けますし、自分の手でキャリアを選ぶという実感、いわゆるキャリアオーナーシップが育まれます。私たちの調査でも、自ら手を挙げて異動した人は会社へのエンゲージメントが高く、キャリア自律の意識も高い傾向にあることがわかっています。

一見、会社にも社員にもメリットが大きい、優れた制度のように見えます。ところが調査を進めると、希望して異動したはずの人が異動先の部署でパフォーマンスを落とし、離職意向まで高まるケースが見えてきました。なぜ、そのようなミスマッチが起きるのでしょうか。

そもそも、制度があることと、社員がそれを活用できているかどうかは別の話です。どれだけの社員が応募し、何人が選考を通り、実際に異動したのか。実態はあまり表に出てきません。まして、希望通りに異動した人がその後も満足して働けているのかを検証した研究は、これまでほとんどありませんでした。

そこで私は2022年から現在に至るまで、主に2つの調査を行いました。一つは、数十社の人事責任者や担当者にヒアリングし、社内公募に対して社員がどれだけ手を挙げたかという立候補の割合と、応募した人のうち何人が異動できたかというマッチングの割合を確認しました。

もう一つが、ある大手電機メーカーとの共同研究です。約1900人にアンケートを実施し、そのうち約30人に直接インタビューしました。応募して異動した人、応募しなかった人、応募したい思いはあるがまだしていない人と、状況ごとに分析しました。そのうえで、希望する部署へ移ったのに「今の職場では自分のキャリアの展望が描けない」と答えた人へ、深く踏み込んで話を聞いたのです。その結果、社内公募制度の意外な実態が見えてきました。

そして現在は、これらの知見を発展させ、昇進の公募でも似た問題が起きていることがわかりました。課長級への昇進を社員の挙手制で募る「挙手型昇進制度」の廃止例です。タテの異動という違いはありますが、自ら望んで動いた人がうまくいかないという構図は社内公募と共通しています。私が調査したある大手企業A社では、ジョブ型の人事制度を導入すると同時に、課長級ポストの一部を公募とする仕組みを始めました。

4年間に計11回実施して、47の課長級ポストに181人が応募しました。倍率にすると約3.8倍です。数字だけ見れば、手を挙げる社員は十分にいたことになります。ところが、実際に異動できたのは29人。合格率は16%で、募集したポストの6割程度にとどまりました。応募は集まったのに、会社が「任せたい」と思える人材とはなかなか結びつかなかったのです。

そして、数字以上に深刻だったのは、当事者がその職に就いてからの働きぶりです。仕事の成果を測る評価でも能力を測る評価でも、会社の辞令で昇進した人や、もともと課長級だった人に比べて、低い傾向が出てしまいました。

(構成=渡辺一朗 イラストレーション=村田篤司)

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