別所氏「筋を通して」、秀吉は「スルー」
つまり、別所氏は西国の事情に通じた身として、大軍である毛利に対して慎重な戦術を求めている。対する秀吉は短期決戦をすべきと主張をしているわけだ。ようは秀吉には別所氏の意見が国人の村争いみたいな戦略に見えたのだろう。ついに、秀吉はこんなことをいってしまった。
秀吉宣ふは、各は先手(の)役にて候へば、働き等の事、随分精を入れられ候へ。勝利を得る下知は、大将役に此方より差図申す可し、とにくていに宣ふ故、両人閉口して、帰城あって、別所の一族・家老の面々参会して、是を評定す。
筆者訳:
(柔剛強弱を使い分けるのが名将である)と(三宅治忠が)申し述べたところ、秀吉が宣ったことには「皆さんは先手の役目なのですから、現場の働きについては、存分に力を発揮してください。ただし、勝利を得るための指示(下知)は、大将であるこの私から指示します」と、取り付く島もない言い方で言い放ったため、両人は言葉を失い(閉口して)、帰城して別所の一族・家老の面々と参会し、この件を評定した。
これを読むと、どっちも間違ったことはいってない。しかし、秀吉は大きなミスを犯している。別所氏が求めているのは、筋を通してほしいということだ。信長につくことを決めて周囲の国人共々従った。その上で先陣という栄誉を頂けるとのことなので、立場を尊重してほしいという筋の問題である。ところが、秀吉はそこをスルーして指揮権は自分が掌握するところにばかり話がいっている。結果「大将は俺だから」と威張っている……と、少なくとも別所氏にはみえたわけだ。
“別所の家臣に、我が物顔で振る舞っている”
秀吉にしてみれば「これだから、田舎の村争い程度しか経験がない人たちは困るなあ」程度のことだったのだろう。しかし、別所氏にとっては一大事だった。
これで「信長はいいけど、部下の秀吉というのは失礼なヤツだな」くらいで治めておけばよかった。しかし、そうはならなかった。
山城守申されけるは、今度、秀吉当国へ下向「して」、近国他国に威を振ひ、別所の家臣に向かひ、遠慮も無く、我意を振る舞ふのみならず、剰へ、我が下人のごとくに挨拶し、国人に首を上げさせぬようにすること、心底を察するに、信長の謀計と存ずる。
筆者訳:
山城守が(評定の席で)申し述べたことには、「今回の秀吉の当国(播磨)への下向についてだが、近隣諸国に対して威勢を振るうだけでなく、我ら別所の家臣に対してすら、遠慮もなく我が物顔で振る舞っている。それだけではない、あまつさえ、まるで自分たちの下人のようにあしらい、我ら国人衆に頭を上げさせまいとする態度を見ていると、その底意を察するに、これは信長公による(別所家を骨抜きにするための)謀計であると確信する」。

