“怪情報”が示す日本の軍事リテラシー欠如

いくつか事例を取り上げてみよう。まず、3月の日米首脳会談時に月刊誌『選択』(4月号)で流布された「ホルムズ海峡への艦船派遣をめぐって、今井参与が高市首相に怒鳴った」という噂を取り上げたい。このニュースは日米関係、日中関係、日本中東関係を揺るがすデマであった。当事者本人たちのコメントや産経新聞の後追い報道によって全否定されたが、この種の話によって、日米関係が悪化した場合、中東情勢に関する以上の問題が生じる可能性すらある。

このような荒唐無稽なデマが「もっともらしく」聞こえてしまう背景には、軍事的事実への理解不足がある。軍事の常識から言えば、ホルムズ海峡は米軍が圧倒的な戦力を展開している海域であり、日本の護衛艦が単独で作戦に影響を与えられる余地は極めて限られている。むしろ、戦力差の大きさから、現場の作戦運用において負担を増やす可能性すら指摘されてきた。つまり、軍事的リアリティを理解していれば、「日本が軽々しく派遣を決断する」「その是非をめぐって官邸内部で怒鳴り合いが起きる」といった構図そのものが不自然だとわかる。

「ナフサ不足」煽りに踊らされてはいけない

また、4~5月にかけてはナフサ不足で、「日本が6月に詰む」という専門家の主張が報じられたこともある。社会不安が生じている状況では、このような“終末論”が目を引くのも無理はない。

2026年6月、ナフサのサンプル 資材足りず現場は苦境
写真=共同通信社
ナフサのサンプル

実際には政府・企業の代替調達が活発に行われたことによって、日本経済は詰んだ状況にはなっていない。ただし、政府、業界団体、企業などが相次いで不安情報を否定する声明を出したが、需給逼迫・価格高騰・品薄による広範な値上げが起きていることは事実だ。今月に値上げが予定されている飲食料品は1078品目であり、トレーや容器などナフサ由来の資材価格高騰などが原因となっている。

しかし、この状況は中東情勢、特にホルムズ海峡の状況に依存している現象に過ぎない。そのため、この状況を正しく読み解くためには、軍事・安全保障の専門家による戦況情報の分析や見通しが必要となる。専門家による「6月に詰む」という見通しは、あくまでも一面的な見方であり、それ自体単独で評価してはならない。

軍事の基礎知識が共有されていない社会では、こうした「政治ドラマ的な噂」が事実のように受け取られてしまう。この問題は、単なるゴシップの話ではない。軍事リテラシーの欠如が、国民の判断を誤らせ、政策議論を歪める危険性を示している。

だからこそ、自衛隊OBなどの関係者の知見は政策決定者だけでなく、一般国民にとっても不可欠な情報源なのだ。