「広域から人を呼ぶ目的」をやめた
注意したいのは、この変化が、テナントが抜けていった成り行きの結果ではないという点だ。これは、運営会社の明確な経営判断だった。
サッポロ不動産開発の時松浩社長(当時)は2021年、日経ビジネスのインタビューで、「これからは万人受けを狙うのではなく、ターゲット層を定めた不動産運営が重要になる」と従来の広域集客戦略から脱却する計画をコロナ禍の前から議論していたと明かしている。
ほかの資料でも同様の戦略が確認できる。施設のメインターゲットを「ライフクリエイターズ」、リニューアルのコンセプトを「ライフクリエイターズ・リビング」と公式に掲げている。会社として明文化された戦略だった。「広域」でも「万人」でもなく、「近隣」と「生活」を重視したといえる。
手ごろな価格帯のライフと、高級食材を扱う明治屋。客層の異なる二つの食料品店をあえて並べたのも、ターゲットを意識した結果だと時松社長は説明する。コロナ禍でテレワークが定着し、生活圏に密着した商業施設の価値が高まったという時代認識もそこにあった。
つまり恵比寿ガーデンプレイスは、「広域から人を呼ぶ目的地」であることを、自ら降りた。衰退ではなく、戦略的な撤退だったのだ。
「百貨店ではなくスーパー」は、正解だった
では、その戦略は、成功しているのか。取材した4月下旬の現地を、もう少し詳しく見ていきたい。正午を過ぎたあたりから、人通りが増えていく。13時を回るころには、広場やその周辺がにぎわい始めた。
センタープラザの地下に降りると、ライフのレジに買い物客の列ができていた。目を引いたのは鮮魚コーナーだ。生簀があり、魚を丸ごと捌いてもらえるコーナーまである。刺身のパックも品揃えが豊富で、スーパーの鮮魚売り場というより、専門の魚屋に近い充実ぶりだった。ここはやっぱり恵比寿だと思った。
隣の明治屋恵比寿ストアーは、客層がはっきりと違う。60代以上の夫婦が中心で、2人分にちょうどいい量のお惣菜や、レンジで温めるだけの簡単な食品が並ぶ。ただし、その中身がいわゆる普通のスーパーとは違った。
見慣れないちょっと良いもの、北海道物産展のような棚構成。高齢者向けというより、富裕層の高齢者向けといった品揃えだった。ライフとは価格帯も客層も異なるが、どちらも「この街に住む人」を照準している。

