今年10月、札幌市内の衣料品チェーン「しまむら」で店員に土下座をさせて、その様子をツイッターに投稿した女性が強要罪で逮捕された。女性に前科がなく反省していたことから強要罪については起訴猶予になったが、追送検されていた名誉棄損で略式起訴されて、罰金30万円の支払いを命じられた。女性がクレームをつけたのは、同店で購入したタオルケット。30万円あれば、良質なタオルケットを何枚も買える。この女性にとっては、じつに高い買い物になった。

普段からお客に振り回されがちなビジネスマンは、悪質なクレーマーが強要罪で逮捕されたと聞いて大いに留飲を下げただろう。しかし消費者の立場に立つと、警察の対応を喜んでばかりいられない。企業のリスクマネジメントに詳しい浅見隆行弁護士は、「クレーマーを強要罪で逮捕するのは非常に珍しい」という。

「警察は民事不介入が原則。お店と客にトラブルがあっても、金品を脅し取るレベルになってようやく恐喝罪で逮捕するという対応が一般的でした。ところが今回は恐喝にいたる手前の段階で強要罪を適用しました。強要罪の構成要件は、脅迫や暴行によることと、義務のないことを行わせることの2点。警察にとっては使い勝手が比較的いい罪であり、今回の対応は非常に積極的な印象があります」

店員に土下座させる行為に強要罪を適用するのはいいが、正当なクレームと罪になるクレームの境目が曖昧だと、消費者はおちおちクレームをつけられなくなる。はたして、どこからがアウトになるのか。

「社会的相当性の範囲を超えると違法と判断されます。要は消費者が受けた被害と、企業に要求する内容や方法のバランスです。たとえ不良品をつかまされたという正当な理由があっても、数百円のタオルケットで店員に土下座をさせるのは明らかにバランスを欠いています」(同)

あくまでもバランスなので、土下座の要求が即、強要罪の成立になるわけではない。たとえば死亡事故があって遺族が加害企業の社長に土下座をさせたというケースなら、強要罪と判断される可能性は低い。結局はケースバイケースで常識を働かせるしかないようだ。