2回目のプロポーズ

2022年8月。コロナ禍のため、結婚式を延期していた三男が、身内だけの結婚式を開いた。

当時、妻は3回目の退院をした5日後。正直本調子ではなかったが、木梨さんは前日から妻の体調の波を読んで段取りを組み、参加した。

しかし予定通りには進まず、式に遅刻。席についても妻はじっとしていられず、立ったり歩いたり。木梨さんは妻を支え続けた。

すると、長男が途中で代わってくれた。さらに主役の1人であるはずの三男が、妻の食事の介助を買って出てくれた。

そして最後、木梨さんが新郎の父親として挨拶をする番が来た。通例の挨拶を述べた後、こう続けた。

「妻は見ての通り、認知症で見守りと介護が必要です。進行してこの先、私のことが夫であるとわからなくなったら、私はもう一度妻にプロポーズしたい。『僕と結婚してください』と……」

会場が静まり返る中、木梨さんは息子たちに「愛し続ける覚悟」を示した。

生花のウェディングブーケ
写真=iStock.com/Vasil Dimitrov
※写真はイメージです

木梨さんの言う通り、介護者は被介護者から離れる時間を設けたほうが、心にゆとりができ、やさしい気持ちで介護に向き合うことができる。

筆者は配偶者が要介護状態になったとしても、介護者は自分の人生を優先するべきだと考えている。なぜなら、被介護者を看取った後も、介護者の人生は続くからだ。今回のように、被介護者が若い場合はなおさらである。

若年性認知症の場合、当人のみならず、その家族も若い。そのため、仕事や家事・育児などと介護との両立が壁となるケースは少なくない。木梨さんの場合、子どもたちは独立していたが、まだ仕事をしていた。木梨さんが在宅介護の限界を感じたのは、介護が、仕事や休息など、自分に必要な時間を圧迫していたことが大きい。どんなに大切な家族であっても、自分の人生を家族の介護に全振りすることは難しく、無理をすれば必ず綻びが出る。

木梨さんは、しばらくは入院という解決策しか選べなかったが、現在のデイサービスに出会ってからは、自分の時間を大切にしながら、妻を在宅介護するということができている。

介護で大切なのは、“後悔を減らす選択肢を自分で選びとること”だ。木梨さんにとっては、思い切って施設に入所させてしまったほうが楽だし、安心かもしれない。それでも今の方法をとっているのは、木梨さんが納得の上で選びとったことなのだ。

「愛情」の形は十人十色。これを認めることが、介護を楽にする秘訣かもしれない。

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