義姉との確執
そこで木梨さんは、「きっと共感してもらえる」と考え、車で30分ほどのところで、義姉夫婦(妻の姉夫婦)と隣同士で暮らしている義母に電話をした。
しかし電話には義姉が出て、こう言った。
「早く福祉に相談してサービスを受けるべきよ。この日に行きなさい」
なんと、義姉は木梨さんが住む地域包括支援センターへ電話をし、勝手に面談の予約まで取ってしまった。
「私は妻を福祉サービスに丸投げするつもりなど全くありませんでした。日頃の大変さを話したのは、あくまで『夫として妻をどう救えるか』を考えていたからです。そんな気持ちを無視して、夫である私にも妻本人にも相談せず、勝手に段取りを決めて『指示』してくる義姉の態度に腹が立ちました」
木梨さんはつい、声を荒らげてしまう。
「実の姉なのに、何も手を差し伸べないで口だけか!」
そして電話は切れた。
結局、その予約は無視した。
ところが後日、包括支援センターの看護師から直接電話がかかってきた。
「大変そうなので、一度お話だけでも聞かせてもらえませんか?」
その優しい言葉に気持ちが和らぎ、木梨さんは日を改めて、包括支援センターを訪ねた。
不安や恐怖を1人で抱え込む
予約をすっぽかした理由や今の妻の様子を話すと、担当の看護師はただひたすら話を聴いてくれた。
「具体的な対策が示されたわけではないのに、今まで感じたことのないすっきり感が湧き上がり、『いつでも相談に来てくださいね』という言葉に、何とも言えない安心感を覚えました」
後日、木梨さんは義姉と和解。なぜなら、包括支援センターの看護師に「お義姉さんがとても心配されてましたよ」と言われたからだ。
「義姉には、私の妻への想いを理解してもらえ、私もいっぱいいっぱいだったために言い過ぎたことを詫びました。そして私も、義姉が私を心配していてくれたことだったと理解しました」
義姉は、認知症の妹よりも、介護者の木梨さんを心配していたのだが、当の木梨さんは、認知症である妻のことしか見えていなかった。それぞれの優先順位が違うために起きた摩擦だったわけだ。
「今なら自分が、初期にありがちな『1人で抱え込む』状態にあったのだとわかりますが、あの出来事のおかげで、ただ寄り添って耳を傾けてくれる人の存在が介護者の心をどれだけ軽くするかを知ることができました。妻を思う気持ちを手放さずに、必要なときは人の手を借りていい。『抱え込むこと』と『支えてもらうこと』は両立できるということを気づかせてもらいました」
しかし、その安堵の一方で、木梨家の中では新たな緊張が生まれつつあった――。


