「世界の警察官」ではなくなった

だが、それよりも重要な論点がある。それは、日本の周辺で米国や日本が攻撃を受けてからの対応ではなく、戦争が始まる前の対応だ。米国が見定めているのは、有事が発生してからの対応だけでなく、有事以前の安全保障体制の構築なのだ。

まず、米国の安全保障における方針転換について詳しく確認したい。米国が同盟国を無条件に守る「世界の警察官」をやめたのは、トランプ氏の気分ではなく、戦略文書に書き込まれている。

2026年1月23日に米国防総省が公表した国家防衛戦略(NDS)は、本土防衛とインド太平洋を最重視し、第一列島線に強い拒否的防衛を築くとする。そのうえで、同盟国・パートナーに、より大きな負担と自国防衛の役割を求めた。

同戦略は、北大西洋条約機構(NATO)の新基準である国内総生産(GDP)比3.5%の中核的軍事支出と1.5%の安全保障関連支出、計5%を、世界の同盟国にも求める姿勢を示した。2026年3月26日にNATOが発表した資料も、欧州・カナダの防衛投資増を強調した。

米国は同盟国の平和を守る「世界の警察官」ではなく、同盟国を採点する国になったのである。

背景にあるのは、米国の兵力、弾薬、輸送能力が有限だという現実だ。中東、欧州、インド太平洋で同時に危機が起きれば、米国はどこに出すかを選ばざるを得ない。その選別基準が、文書上も政治上も前面に出始めた。

アメリカ軍の迷彩服を着た兵士
写真=iStock.com/DanielBendjy
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米国の選別圧力を、日本側も意識している。2026年2月20日に首相官邸が公表した高市首相の通常国会冒頭の演説は、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境の中で、日本が自ら考えてハンドルを握り、外交と防衛を車の両輪として独立と平和を守り抜くと表明した。

米国が同盟国に求める「自助努力する国」の像を意識した自立論であり、規模ありきの防衛費議論との距離を置く言葉でもある。

トランプ氏の同盟観は「支払い」と「見返り」である

トランプ氏自身も、同盟を費用対効果で語る。

2025年3月7日に配信されたロイター記事は、同氏がNATO加盟国について、防衛費を十分に払わなければ守らないという趣旨を述べたと報じた。同じ記事で同氏は日米同盟についても、米国は日本を守るが日本は米国を守らないという不満を示した。

この理解は厳密に言えば事実とは異なる。日本は2015年の平和安全法制以降、一定の条件つきではあるが集団的自衛権を行使しうる。だが、大統領が同盟を「不公平な取引」と見ている事実は消えない。2025年4月17日に配信されたロイター記事は、トランプ氏が在韓米軍経費を関税交渉に絡め、日本とのやり取りでも防衛負担に言及したと報じた。基地、駐留経費、通商は、別々の箱ではなくなっている。

在日米軍は米国の中国抑止に不可欠な前方拠点であり、日本防衛の柱でもある。価値があるからこそ、米国は維持費、受け入れ体制、作戦支援を日本に求めやすい。日本側が「米軍は米国にも必要だ」と言うだけでは、交渉上の答えにならない。