「3年でシリア難民80%の帰国」は実現するのか
一方、アル・シャラア氏はアサド政権に弾圧されていたスンニ派だ。
だから、氏のHTMは、これまで敵であったシーア派やキリスト教に対して、当然、今も寛容ではない。そこで、彼らが権力を掌握したら起こるだろうと想定していた通りのことが、今、起こっている。
つまり、アラウィー派やクルド民族への報復、虐殺。キリスト教徒もすでに安全ではない。アル・シャラア氏は、規律を侵した治安部隊は取り締まると言っているが、どうなるか?
さて、メルツ首相は冒頭のアル・シャラア氏との会談後、記者団の前でこう言った。
「大統領の要請で、これから3年でドイツにいるシリア難民の80%が帰国することになる」。
ドイツにいるシリア人のほとんどは、メルケル首相が15年に国境を開いた時に無秩序に流入した人たちだ。その後、24年7月に社民党政権が帰化の条件を緩め、この年だけで8.3万人のシリア人がドイツ国籍を取得。そのため、現在、在独シリア人の数は統計上は少し減ったが、それでもまだ95万人。
そのうちの80%を帰国させるには、単純計算でも毎日700人を飛行機に乗せなければならない。まさしく非現実的。首相がこのような妄想を語ると、信用をなくす。
「いま帰すのは非人道的」という声
ちなみに、95万人のシリア難民のうち就労者は3分の1のみ。また、約50万人は市民金という生活保護で暮らしている。
市民金受領者は住居も暖房費も全額補助され、子供手当と合わせるとかなりの額となる。
昨年、欧州在住のシリア難民にアンケートを取ったところ、母国には帰りたくないと答えた人が大半だった。
一方、現在、ドイツで働くシリア人医師は、なんと6000人以上。
彼らの多くは、15年以前に亡命してきた人たちで、彼らが母国送還になると困る病院はたくさんある。
だから今、「ドイツ社会に溶け込んで生活している人たち、特に就労者を帰すな」という声が高い。しかし、役に立つ人は留めおき、失業者や犯罪者は帰すというのは、何となく虫が良すぎるのではないか。シリアは復興のために、まさに役に立つ人々を必要としている。
ちなみに、社民党や緑の党は基本的に、1人でも多く難民を入れ、入った難民は二度と返したくない。だから、「シリアの町は破壊されており、あんな所に難民を返すのは非人道的だ」という主張もある。
彼らに言わせれば、まずドイツ人がなすべきは「町の復興」。ということは、シリア人はそれが完了してから帰国? ありえない! と思うのは私だけか?

