就床時間を短くしてわかった明確なメリット
睡眠制限療法のみでも、認知行動療法の全工程(心理教育、リラックスのためのトレーニング、睡眠制限、刺激制御、認知療法)と同じくらい効果的なようだ。
2021年のメタ分析では、睡眠制限療法を実施すると不眠症の重症度は大幅に低減し、入眠がずっと早くなり、目覚めたままベッドに横になっている時間が大幅に短縮すると指摘され、効果は認知行動療法の全工程に匹敵すると結論づけられている。
睡眠制限療法の速やかで強力な効果を説明できるものは、以前は理論上のモデルだけだった。しかし、睡眠制限療法の最中に生じる睡眠圧の増加と覚醒レベルの低下を生理学的に測定できることが2022年1月に発見された。睡眠制限療法の利点は適用範囲が広いことだ。
若年から中年の成人によい結果がみられることに加え、高齢者や児童にも大いに効果がある。6〜14歳の子どもでは睡眠圧が増すと寝つきがよくなった。子どもの両親は、治療後4週間経っても子どもの寝つきや睡眠が改善された状態が維持されていると言っている。
重要なのは就床時間が短くなっても子どもの認知機能に悪影響が見られなかったことである。また、高齢者(平均年齢約65歳)でも、睡眠制限療法には入眠が早くなる、睡眠が改善するなどの明確な利点があった。
すると、次のような疑問が頭をもたげる。効果の高いこの療法を知る人が少ないのはなぜだろう? 臨床での印象と不眠症患者を長年診てきた経験から私はいくつかの仮説を立てている。
睡眠時間を増やす努力の前に睡眠の質を改善
産業社会では睡眠時間の長さに関心が集中し過ぎている。「古ぼけた民間の迷信」――睡眠は8時間とるべきだなど――から始まり、メディアが時折「睡眠を充分にとること」などと強調して取りあげることで関心が増強され、睡眠の質と健康への影響に関する研究でさえ、「睡眠があまりに不足すると……につながる」といった就床時間の短さを否定する意味あいのある見出しをつける。
睡眠を充分にとることは大切に違いないが、ならば睡眠制限療法において就床時間を短くするのはなぜか? 答えは単純だ。睡眠時間を増やす努力をする前に、まずは主観的な睡眠の質を改善しなければならないからだ。それには就床時間の短縮が必要なことが多い。睡眠時間の長さがなにより重要だと常に考えていたら逆説的に思えるだろうが。
問題を解決するのは医薬品だと考える人は多いが、それは患者であれ医療専門家であれ別のアプローチを見落とす原因になりかねない。処方された睡眠薬を服用する人もいれば市販の錠剤、ハーブエキス、その他の受動的な療法を選ぶ人もいる。
睡眠制限療法には自発的な行動の変化が必要なため「即効薬」――効果があるようで実はそうではない、最終的には逆効果になる睡眠薬も含めて――ほど人気がない。睡眠制限療法は初めは大変かもしれない。初期には眠気や機能低下を感じる人も多い。
気分が改善するまでに少なくとも1〜2週間かかることが多く、それを怖れる患者もいる。
また、「睡眠制限療法」という用語自体があまり魅力的でない。睡眠時間を制限しているように思えるので、睡眠不足の患者が脱落してもおかしくはない。もっとポジティブな印象の用語、例えば「就床時間の調整療法」などとすれば治療現場でも取り入れやすくなるかもしれない。

