育児とキャリアアップの壁にぶつかる

置き場での作業をひたすら続けていた東さん。気が付けば、ユンボに乗り始めてから約4年が経っていた。

4年間ユンボに乗り続けていたため、基礎技術はかなり習得できた。そうなると、今度は「本格的な現場に出たい」という欲が出てきたという。この「本格的な現場」というのは置き場での単調な作業ではなく、山を切り拓いて宅地として整備をしたり、建設用の基礎工事をする際の地盤の掘削などを行うことを指す。

「会社の社長や先輩にも『現場に出たいです』って言い続けていました。そしたら、社長が別の会社の現場仕事を紹介してくれることになったんです」

東さんにとっては願ってもないチャンスだ。しかし、東さんは二つ返事で「行きます」とは言えなかったという。

資格試験の期間短縮のために、先に「大型特殊免許」を取得した。大型特殊免許は知識も経験もない状態で試験を受けに行き、教官に「これどうやるんですか?」と聞いたこともあったという
撮影=プレジデントオンライン編集部
現場に出る際の苦悩について語る東さん

「現場に誘っていただいた時期が、ちょうど離婚と長女が小学校1年生になるタイミングと被ってしまって。小学生って基本的には一人で登校すると思うんですが、私がもし現場に行ってしまったら、子どもたちの登校を見届けられないことがわかったんです」

東さんが紹介された現場は、自宅からおよそ1時間半ほどの場所。その現場では朝礼が8時に始まるため、6時には家を出なければ間に合わない。つまり、子どもたちの登校前に家を出なければ現場に行けない状況だったのだ。

シングルマザーの東さんにとって、幼い子どもを学校に見送れないことは大きな不安だった。

憧れの現場仕事を任されるように

しかし、ここで現場を経験できなければ、次にいつチャンスが来るかわからない。

「自分の夢はもちろん、子どもたちを養うためにもこのチャンスを逃すわけにはいかないと思って、最終的には社長に『行かせてください』と返事をしました」

そして、東さんは念願の現場仕事をスタートさせた。憧れの現場仕事は、大変なことも多かったが、それ以上に楽しいものだった。毎日新しいことを学び、日々自分のスキルが上がっていくのを実感できた。

これまで、会社の置き場でしかユンボを操縦していなかった東さんにとって、実際の建設現場での作業はすべてが新鮮だったという
筆者撮影
これまで、会社の置き場でしかユンボを操縦していなかった東さんにとって、実際の建設現場での作業はすべてが新鮮だったという

一方で、当時、小学1年の長女と、小学5年生の息子の育児にも向き合った。

「私はシングルマザーで実家も長野なので、気軽に頼れる人はいませんでした。それでも、ママ友や周りの人たちに娘を見てもらったり、現場の朝礼が始まる前に毎日電話をかけて様子を確認したり、とにかくできることは全部やっていました」

いま思えば、それが正解だったのかはわからない。もしかしたら、子どもたちに寂しい思いをさせてしまったかもしれない。

だが、いまの東さんがあるのは、間違いなくこのときに現場に行く決断をしたからだろう。