「育児ぐらいしっかりやれよ‼」と妻に激怒

数分の沈黙が訪れる。そろそろ、モラハラの具体的な内容について尋ねるべきだと考えた、その時だった。竹内さんが誰に言うともなく、視線の定まらないぼんやりした表情で、つぶやいた。台本のセリフを棒読みするような抑揚のない、弱々しい話し方だった。

「お前の育て方が悪いから、いじめられるような意気地なしの男になったんだ!」「楽させてもらっているんだから、育児ぐらいしっかりやれよ‼」――。

自らが口にした光景がよみがえったのか、竹内さんはさらに沈痛な面持ちでうなだれた。貸会議室を取材場所に、休憩を挟みながら3時間近くに及んだインタビューで、彼がぽつりぽつり、モラハラについて話してくれた概要はこうだ。

長男は不登校の期間を経て、クラス替えによって友人もでき、いじめられることもなくなったが、18年には第二子の長女が、長男と同じ小学4年生の時に、今度はクラスメートの女子1人を集団でいじめて学校から呼び出されるなど、わが子の子育て、教育を巡り、さらに夫婦の溝は深まった。

その後も、妻が始めた地域ボランティア活動や、長男が第一志望の高校に進学できなかったことなどに関して、竹内さんは一方的に妻を否定し続けた。

言い争う男女
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「妻に心から感謝できるようになりたい」

「家庭しか知らないお前が、地域の役に立てることなんか何もない」「ずっと子どもたちの傍にいるのに……何もわかってないな」――。

妻の人格を否定する言葉も少なくなかったという。こうしたモラハラは、竹内さんが自覚していないものも含め、妻が家を出ていくまで少なくとも10年近くは続いていたらしい。

2025年春から、53歳になった竹内さんと妻子は再び別居している。今度は竹内さんが、30年ローンを繰り上げ返済したマンションを出て、自宅から徒歩15分ほどにある賃貸マンションに一人で暮らしている。

彼なりに熟慮したうえでの判断で、良好な家族関係を維持するためのことだという。25年秋、自宅を出た理由と妻子への思いを聞いた。

「妻が家を出た時は、家事とか子どもたちのこととか、どう生活していけばいいのか……驚きや怒り、不安が大きかった。お母さん(義母)が週に2、3日来て助けてくれたお陰で、何とか乗り切れましたが、妻にどれだけ世話になってきたかを思い知りました。それからずっと、妻へのモラハラを含めて、自分の至らなかったことを考えてきましたが……まだ妻への詫びも感謝の言葉も足りていない。

一人暮らしをして自分で家事をこなしながら、さらに時間を費やして妻を苦しめた言葉や行動を振り返って反省し、また妻が長年、私や子どもたちのために尽くしてくれてきたことを心から感謝できるようになりたい。会社員人生終盤のひと区切りでもある役職定年(役定)も近くに見えてきて……今しかないと……」