「男は仕事、女は家庭」という価値観
そんな時代に逆行するかのように、自らの考えを包み隠さずに述べてくれたのが、中堅メーカーに勤める竹内さんだったのだ。
「奥田さん、今日は本音で話しますよ。世の男たちは時代遅れと見られたくなくて、みんな建て前で語りますからね」。挨拶を交わした直後から、そう勢いよく話し始めた。
「男は出世競争を勝ち抜いて、しっかりと妻子を養う。一方で、妻は家庭を守って家事、育児に専念し、夫と子どもが安心できる居場所を作るのが役目であるべきです。男女で役割を分けたほうがうまくいくに決まっています。
だからこそ、男たちは仕事に力を注ぎ、日本は終戦から立ち上がって高度経済成長期を迎え、世界有数の経済大国へと発展を遂げたんですから。この成功体験を日本なりの夫婦、家族のあり方として、尊重しなくてはなりませんよ。
『男女平等』『女性の社会進出』とか叫んで、何でも欧米を真似ればいい、というものではないんです」
当時、取材対象者にここまで夫婦の性別役割分業を志向し、その価値観を褒め讃えて語る人はいなかっただけに、竹内さんの主張に圧倒されたことを鮮明に覚えている。
「それでは、結婚相手の女性(は)……」質問を最後まで聞くことなく、語尾に被せてこう言い切った。「もちろん、専業主婦。家庭に入ってもらいますよ」
妻を「最高の相手」と称賛していた
この取材の3年後の05年、竹内さんは33歳の時に合コンで出会った、事務の仕事をしていた7歳年下の女性と結婚した。結婚後も仕事を続けたいという女性が想像以上に多く、結婚するまでのプロセスでは難しい面もあったという。それだけに、妻は夫婦の役割分担の考え方が共に一致した「最高の相手」と称賛した。
2006年には長男、08年には長女が誕生し、一男一女の父親になった竹内さんは、家事や育児など家庭内のケア役割のすべてを妻に任せ、自分は仕事に専念した。そして10年、38歳の時に課長職に就いた。課長昇進から数カ月後のインタビューでは、こう胸の内を明かした。
「同期の中で課長ポストを手にしたのは早いほうですが、一番ではありません。うちの会社では人件費削減のために上位の管理職のポスト減らしを進めているので……うかうかしていられないんですよ。これからはなおいっそう、実績を上げて、高い人事評価を獲得し続けなければなりません。まあ、頑張るしかないですね」
結婚して以降、取材での話題は仕事に比重が置かれていたが、幼児期の2人の子どもや妻との関係など家族を語ることがめっきり減ったのは、課長になったこの頃からだった。

