昇進するも「家族の話」が抜け落ちる

例えば、長男と長女の成長ぶりや性格などについて尋ねると、「さあ、どうでしょうかね。全部、妻に任せていますから」などと素っ気ない。

竹内さんの夫婦の役割分業意識を踏まえ、妻が家事や育児など家庭内のケア役割を全部担っていることのメリットなどを改めて質問すると、「(妻がケア役割をすべて担うのは)当然のことですよ」と焦点をずらした答えを返してくる。

課長昇進から数年の間に、家族の話を振ると、明らかに言葉を濁し、眉をひそめるようになっていた。出世の階段を上り始めるのと反比例するかのように、妻子との心の距離が日増しに離れているように感じられた。

竹内さんは自ら宣言した通り、着実に実績を積み上げ、2016年、44歳の時に部次長ポストを獲得した。同期での次長昇進は、一番乗りだった。仕事で躍進する一方で、家庭内では不穏な空気が流れ、妻子との間に亀裂が入っているのではないか。

19年まで電話も挟みながら対面で行ってきた継続取材のなかで、家族について問いかけた時に彼がたびたび見せる嫌悪の表情から、そう推察した。だが、取材者として不甲斐ないが、当時、彼から胸の内を聞き出すことはできなかった。

ビジネスマンの背中
写真=iStock.com/monzenmachi
※写真はイメージです

自分のモラハラを受け止められない

そうして実に5年ぶりの対面取材で、妻に対して、モラルハラスメント(モラハラ)行為に及んでいたことを知るのだ。

23年の妻の家出とともに、これらの経緯を明かしてくれたのが、24年春のインタビューだった。身を寄せていた義母(妻の実母)の説得もあり、妻は自宅を出てから1カ月ほどで自宅に戻ったという。

竹内さんによると、後からそれが妻へのモラハラであったと気づいた最初の出来事が、16年に小学4年生の長男が学校で複数のクラスメートから、いじめに遭ったことだったらしい。

「妻が家を出てしばらくしてから、妻とLINEでやりとりをするようになり、そこで自分のモラハラ行為を初めて知りました……それまで、全く自覚がなかったものですから……。それが妻の家出の大きな要因のようで……。『妻は自分の存在を否定し続けられ、耐えられなかった』と……。

妻が戻ってきてくれてからは時間をかけて自分なりに精一杯、妻の話を聞いて理解するよう努めてきたつもりですが……。実は、まだ自分の行ったモラハラ行為を、そのー、もちろん反省はしていますが、十分に受け止めきれていないというか……」

苦悶の表情を浮かべ、ここまで話したところで言葉に窮する。