60代社員の処遇方法は3つに分類される

全体を俯瞰すると三つのグループに分類できます。

60代社員の年収を直近5年以内に引き上げた企業が4分の1、引き上げ予定または検討中の企業が半数強、検討していない企業が4分の1弱という状況です。それらの割合は60歳定年企業も65歳定年企業もほとんど変わりません。

状況を精査すると、直近5年以内に引き上げた企業と今後引き上げ予定・検討中の企業とは、大きく特徴が異なります。

【60代社員の給与を直近5年以内に引き上げた企業】

年収を10%程度引き上げた企業が最も多く、全体の6割弱を占めます。引き上げ幅の平均は17%です。調査データから簡易的に推計すると、従来、60歳時に年収が平均43%下がっていた企業が平均17%の引き上げを行い、現状では年収低下率が平均26%になっているというイメージです。直近5年間に年収を引き上げていない企業の年収低下率は平均28%なので、従来、年収低下率が大きかった企業が年収を引き上げて、平均的な低下率になったということです。

【60代社員の給与を引き上げ予定または検討中の企業】

今後引き上げを予定・検討中の企業の年収引き上げ幅も、10%程度とする企業が4割と最も多く、平均では19%アップです。しかし、直近5年以内に引き上げた企業とは大きく異なる特徴があります。60歳時の年収低下率が大きい企業よりも、あまり年収が下がっていない企業のほうが年収を引き上げようとしています。

60代社員の処遇格差は大きく広がる

全体では引き上げ予定・検討中の企業は56.3%ですが、60歳の処遇見直し時に「年収は上がる・ほとんど変わらない」企業では7割近く、「10~20%程度下がる」企業では6割強が、引き上げを予定・検討しているのです。

調査データから簡易的に推計すると、60歳時の年収低下率平均25%の企業が平均19%の引き上げを行い、今後は60歳時の年収低下率が6%になるイメージです。そのような企業が半数以上になるということです。

今後、年収引き上げ予定・検討している企業と、そうでない企業との60代社員の処遇格差は大きく広がっていきます。

60代社員のモチベーションの状況も変わってくるはずです。

60代を「明日はわが身」ととらえる50代後半社員にも看過できない影響がありそうです。給与が上がる会社に勤める人には朗報ですが、そうでない会社に勤める人からすると、自社施策への不満が高まり、さらにモチベーションが低下することにもなりかねません。前項で指摘した通り、企業の人材マネジメントに対するスタンスは二分されています。これも、その端的な事例です。

藤井薫『定年前後のキャリア戦略 データで読み解く60代社員のリアル』(中公新書ラクレ)
藤井薫『定年前後のキャリア戦略 データで読み解く60代社員のリアル』(中公新書ラクレ)

60代社員の年収引き上げは、60代社員過剰感のループを断ち切ることに繋がっていく、注目すべき変化です。

しかし、直近5年で引き上げた企業と今後引き上げ予定の企業年収引き上げ基準は、「全員一律」が3割強を占めます。全員一律で引き下げてきたので全員一律で引き上げるという考え方も一理あるものの、企業は継続勤務60代社員を評価するためのデータをすでに十分蓄積しているはずです。

年収引き上げ自体は望ましいことですが、全員一律基準での引き上げは、人材不足に対する量的対応であり、依然、個々人を見ているわけではないという課題感は残されたままです。ステレオタイプな人材観の脱却に向けて、企業はもう一歩踏み込むことが望まれます。

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