安倍元首相が公明党にすり寄って生まれた「加憲案」

まともな「9条改正」を回避した安倍加憲案を踏襲する「9条改正モドキ案」を自民党が掲げているのはなぜか。答えは簡単で、自公連立政権だったからである。

実は、民主党政権時代、野に下った自民党は2012年に、これとは異なる9条改正を提唱する憲法全面改正草案を公表していた。この全面改正草案は自民党の鬱憤うっぷん晴らしの政治的スタンドプレーともいうべきもので、内容が粗い(そして荒い)だけでなく、個別問題ごとの改正を基本とする憲法改正手続のイロハを踏まえておらず、本気度が疑わしいものであった(これへの批判として、参照、拙稿「憲法改正から逃避する自民党」『Voice』2024年9月号、58~67頁)。

それでも、9条については、その2項を明文改正して「前項の規定は自衛権の発動を妨げるものではない」(前項とは国際紛争解決手段としての武力行使を禁じた第1項)と定め、9条の2という枝番条文で、「国防軍」を保持するとし、「国防軍は……法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する」と定める試案になっていた。戦力統制規範を法律に丸投げしている点は大問題だが、自衛戦力の保有と行使を明認するという最低限の改正案の実質は有していた。

しかし、民主党政権の「自爆」的な自壊で、自民党が政権を回復し、安倍晋三が首相の座に返り咲くと、状況は変わった。「憲法改正を初めて実現した首相」としてのレガシーを何としてでも残したい安倍は、政治的に無理筋の2012年憲法全面改正草案を棚上げして、焦点を9条に絞り込み、連立パートナーで護憲派的姿勢に固執していた公明党にも呑ませられ、政治的実現可能性が高い改憲案として、9条2項温存の「加憲案」を提唱するに至った。「改憲」という言葉すら避けて「加憲」という造語を使った点にも公明党への「媚態」が見られる。

高市政権は「政治的詐術」をやめるべき

高市政権の下で、自民党は連立パートナーを公明党から、改憲に積極的な日本維新の会に変えた。もはや、公明に媚態を示す必要はなくなっていたし、しかも政権枠組変更による基本政策変更について国民の信を問うことを解散総選挙の「大義名分」にした以上、高市首相は、安倍加憲案を踏襲した現在の自民党の「9条改正モドキ案」を変更するのか、どのような方向で変更を目指すのか、自らの基本姿勢を有権者に明確に示した上でその審判を受けるべきだったろう。

それをしなかったのは、選挙では反発されそうな政策提言は避けて好印象拡散操作に努め、選挙に勝ってから「本望」を遂げようとしたのかもしれないが、日本の安全保障体制と立憲主義体制の根幹に関わる9条問題について、このような政治的詐術は許されない。

高市首相は政治的詐術をやめるべき
写真=時事通信フォト
高市首相は政治的詐術をやめるべき[衆院予算委員会で挙手する高市早苗首相(右)=2026年3月3日、国会内]

自民党は9条改正を主張してきたから、今般の自民党圧勝で9条改正についても国民の信を得たことになるという反論は成り立たない。

選挙前に自民党が掲げていたのは上記の安倍加憲案由来の9条改正モドキ案であり、高市首相は今般の選挙でも安倍晋三への心酔を売り物にした以上、自民党に投票した有権者の多くが9条改正を支持していたとしても、支持していたのはこの加憲案であるということは十分考えられる。

高市首相は、なぜ安倍加憲案ではだめなのかを有権者に説明して、それを超える9条改正の必要を明確に主張しなかった以上、現在の自民党の9条改正モドキ案を超えた実質的な改正案の実現を図ろうとしたとしても、かえって反発を招く恐れがある。

【関連記事】
高市早苗氏でも、麻生太郎氏でもない…「まさかの自公連立崩壊」で今もっとも頭を抱えている政治家の名前
習近平が最も恐れる展開になる…高市首相が切り出せる「日本産水産物の輸入停止」への3つの対抗手段
「ゆくゆくは愛子に天皇になってほしい」そう願う上皇陛下の心を無にした…悠仁さま誕生を利用した政府の罪
私には明瞭にモノを言うが、他人には曖昧な言葉を使う…昭和天皇が「総理大臣にしてはならぬ」と語った政治家
元海自特殊部隊員が語る「中国が尖閣諸島に手を出せない理由」