2つの原理を行き来する柔軟さが必要

では、その反対に「数値化できないもの」や「目に見えないもの」を信じる力が現代社会に欠けているのかといえば、必ずしもそうではありません。人は昔から目に見えないものに意味を感じ、そこに支えられて生きてきました。

資本主義を半分捨てる
青木真兵『資本主義を半分捨てる』(ちくまプリマー新書)

例えば宗教的な信仰や、死者を悼む儀礼、あるいは「友情」「信頼」といった目に見えない関係の力です。これらは数値化できませんが、確かに人を支える力を持っています。一方で「見えない世界がある」と適度に信じることは健全でも、それが現実社会のすべてを否定する方向に傾くと、陰謀論に陥ってしまいます。

たとえば新型コロナウイルスの流行時に「ワクチンは人体にマイクロチップを埋め込む計画だ」といった虚偽情報が広がったり、米国のQアノンのように社会の出来事をすべて裏の勢力の計画に結びつけてしまう運動が現れたりしました。こうした極端な目に見えないものへの信仰は、社会を分断し、暴力や差別を生む危険さえはらんでいます。

要するに、ここで強調したいのは「1つの原理に統一されないこと」です。市場原理に代表される他者ニーズに偏りすぎても、また目に見えないものや自己ニーズだけを絶対視しても、社会は健全には成り立ちません。

大切なのは、この2つの原理のあいだでバランスをとることです。他者ニーズと自己ニーズを行き来できる柔軟さこそが、僕たちがより人間的に生きるために必要なのだと思います。

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