高い水準の農業保護の指標は当てにならない
もちろん、農業の保護は予算を用いる方法だけではありません。少々専門的な話になりますが、国際的に広く認められた農業保護の指標として「パーセンテージPSE」があります。PSEはProducer Support Estimateの略で、OECDから国ごとの数値が毎年公表されています。
関税を高く設定することで輸入食品の価格形成に介入すれば、国内における農産品の価格は上昇します。意図的に食品の内外価格差を発生させるのです。
こうすることで、間接的な所得としてもたらされる金額(内外価格差×生産数量)と農業に対する補助金の合計を、農業生産金額と農業に対する補助金の合計金額で割った数値が「パーセンテージPSE」であり、各国の包括的な農業保護水準を表す指標とされています。
OECDの統計では、2023年に日本のパーセンテージPSEは約31パーセントと、EU平均の約17パーセント、アメリカの約7パーセントよりかなり高い水準です。
このため日本は農業保護の水準が高いと評価する論者もいます。数字的には確かにその通りですが、だからといって日本の農業保護政策が機能しているとはとても言えません。
それほど手厚く保護されているなら、先述のような危機的状況にはなっていないはずです。
日本の食料高値は「隠れた増税」である
そこには、大きく3つの問題点があるように思います。第一に、日本が参考とすべきは、よく似た農業構造を持つスイスです。
スイスのパーセンテージPSEは約49パーセントと日本よりもずっと高いのです(図表2)。
またEU全体では約17パーセントと非常に低い数字ですが、EU加盟国には農業国が多く、多種多様な経済発展の段階にあることから、安易には比較できません。
加えて農業生産金額は規模や生産性に左右されることから、零細な兼業農家が多い日本のパーセンテージPSEは必然的に高く算出されます。
食料安全保障を考えるとき、日本の農業に対する支援はやはり十分ではないと思います。
第二に、関税による国内農業の保護は、消費者が高い値段で農産品を買うことで、市場経済を通じて成り立っている点です。
そのため、先に見たように、日本は農業予算が大幅に削減されているにもかかわらず、農業保護が手厚い国だといわれます。
しかし実際には国ではなく消費者が農業保護を行っているのであり、OECDの報告によれば、その割合は2020年でアメリカ6パーセント、EU16パーセントに対し、日本は76パーセントと飛びぬけた数字になっています。
しかも関税は国庫の収入となります。農業保護を消費者任せにしている安直な日本の政策はケチどころか、隠れた増税とも言えるのです。結果として、日本の食料品価格は全体的に高くなっています。
消費者にあまり知られたくないのか、政府はきちんと説明しませんが、このやり方は低所得者層には厳しい政策です。
例えば、米には1キロ当たり341円の関税がかけられており、およその輸入価格が150円ならば足した491円になって売られているのです。そして国内の米価はこれより高く維持されています。
必需品である食料への関税は所得水準に関係なく、全ての家計に高い食品を買わせる仕組みなので逆進性が強くなります。
