ロングセラー商品はなぜ売れ続けるのか。明治時代に発明された、たわしの元祖「亀の子束子」は、令和になっても職人の手によって同じ製法で作られている。生産性向上・コスト削減のために製造業の機械化が進む中、手作りにこだわる理由を取材した――。

年間100万個仕上げる職人技

約110年以上にわたり、色や形、製法が変わらないロングセラー家庭用品がある。亀の絵とオレンジ色の袋がトレードマークの「亀の子束子たわし」だ。1907年(明治40年)に日本初のたわしとして誕生して以来、職人が今も一つひとつ手作りしている。これまでの累計販売数は、5億個を超えた。

たわしの元祖・亀の子束子
撮影=プレジデントオンライン編集部
たわしの元祖・亀の子束子

100均のたわし、ポリウレタン製スポンジやアクリル製ニット、不織布スポンジなど、安価な食器用スポンジがいろいろと出回る令和の時代の今も、1個484円(税込み)の亀の子が売れている。

年間売上数は約100万個。ヤシの天然繊維を束にした茶褐色のたわしが長年、売れ続けている理由は何か。東京・北区にある「亀の子束子西尾商店」本社・工場を訪れた。

亀の子束子西尾商店の本店。裏に本社と滝野川工場が続いている
撮影=プレジデントオンライン編集部
亀の子束子西尾商店の本店。裏に本社と滝野川工場が続いている

人間にできて、機械にできない理由

「周りの工場が機械化して大量生産していくなかで、かたくなに手作りを続けています。原料のヤシは植物なので、季節や時期によって繊維の質が変わるため、毎回手で繊維に触れて手先の感覚を頼りに調整しながら仕上げます。この微細な作業は、機械では難しい。そのため、1907年から1回も機械化したことがありません。AIの時代でも、人の手でしかできないのがたわし作りなのです」

こう説明するのは、広報部・西尾祐理子さんだ。

広報の西尾祐理子さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
広報の西尾祐理子さん

一つのたわしを仕上げるまでに、ヤシの繊維を束ねて均等に断裁して棒状に曲げてと、8工程を通る。たわしに触れたときに違和感がないよう硬い繊維を一方向にきれいに合わせるのは、とても難しいという。

質素なつくりに見えるたわしが、こんなにも細かな作業で、しかも人の手で作られているとは、思いも及ばないことだ。まして、100年以上前の製法で作られているとは、想像すらつかないのではないだろうか。長年、亀の子束子を愛用する筆者も知らなかった。