300万円超の腕時計なのにボロボロの事務所
私は今でこそ大学や専門学校で講師をし、講師オーディションでも優勝していますが、20代後半までは人前で話すのが大の苦手でした。赤面恐怖症を治す講座にも足を運んだくらいです。
税理士資格を取ったあとも、そんな性格を直して、関係者の皆さんときちんと話せるようになりたいと思い、「セミナー講師養成学校」に通いました。
学校が終わったあとは、懇親会にも参加していたので、先生とも仲良くなりました。十冊以上の書籍を出版している先生です。
北海道の田舎育ちだった私にとって、カリスマ的存在でした。オーダーで仕上げたワイシャツとスーツ、高級な靴、300万円を超える腕時計。憧れの先生でした。
ある日、その先生の事務所へ遊びに行く機会がありました。
田舎にあるその事務所は、お客さんが来ることもないので、執筆活動にだけ使っていると聞いていました。車のナビに事務所の住所を登録して出かけます。
1時間後、事務所周辺に近づきましたが、それらしき建物は見当たりません。「目的地に到着しました。案内を終了します」というナビのアナウンスが終わっても、事務所がないのです。
看板一つ立っていません。あるのは、ボロボロの黒く朽ちた木造の小屋。その駐車場には、5万円もらってもいらないようなポンコツの軽自動車。
「まさか、ここ⁉」
立てつけの悪い引き戸のドアを思いっきり引っ張ると、そこには……先生が立っていました。
限られた資金を、どこに投資するか
先生いわく「誰も来ない事務所や、通勤でしか使わない自動車にお金をかける必要はない。講師業は夢を売る商売。ヨレヨレのスーツを着て安い腕時計をしている人から、成功の話を聞いても説得力がないでしょ? ブランド力を高めるためには、事務所や車より、スーツや時計にお金をかけたほうがいいんだよ」とのこと。
限られた資金を、どこに投資するかを考えての戦略。さすがだと思いました。
また、私の顧問先の社長は40代。70代の父親から、8期連続赤字だった会社を引き継ぎ、3期連続黒字に回復させたやり手です。
社長といっても、総務部長を兼任するプレイングマネージャー的な存在。誰よりも早く会社に来て、3人分は働いています。人員整理で3分の1の社員が辞めたため、社長自ら3倍の仕事をしなければなりません。
車はなんと軽自動車。先代の社長は、運転手つきの最高級ドイツ車でした。リモコンでシャッターを上げ下げできる車庫も完備されていました。
しかし、新社長はその車庫を使わず、会社の玄関から一番近い、事務所の壁に面した青空駐車場に停めています。すぐに発進できるし、バックで停める必要もない。玄関から一番近いので、数歩で事務所に出入りできる。軽自動車なので、狭い裏道を走るのにも便利。
運転手つきの高級車に乗って時間をかけるよりも、小回りのきく軽自動車に乗って活動したほうが速いのです。シャッターを上げてバックで駐車し、シャッターを閉めるより、青空駐車場に停めるほうが速いのです。

