電子部品の展示会は一切見ません

【辻本氏】最初は、秋月のキットは不親切だとずいぶん怒られました。基盤がないのかと言われればプリント基盤をつけた。ユニバーサル基盤をつけたら、専用ボードはないのかと言われるので、またそれをつけてあげて。お客さんの言うままにやってきました。その結果、品揃えも増えてきたんです。楽しかったね。

当初の品揃えは約600点。それが次第に増えて、5年前には2000点に達し、それからさらに増加して、現在は6000点に達している。そのうち、海外からの仕入れは6割を占める。客からのリクエストに応えて、商品を即座に追加すれば打てば響くように客が喜び、数字が伸びる。辻本氏が感じた「楽しさ」は客が秋月の品揃えに感じた「楽しさ」とイコールだったに違いない。

【辻本氏】5年前までは私が現金を持って仕入れに行ってました。海外からの仕入れはアシスタントの女性にメールでのやりとりで仕入れてもらってます。電子部品の展示会? 私は一切、見に行ってません。いまは香港とか台湾の部品の展示会に行ってもらってますがね。商品の半分以上は「これ、いいな」という気分で仕入れたものなので、当然、失敗もありましたよ。全然売れてないモノもあります。ウチは、在庫にはどれも「何ヶ月分」「何年分」という表示が出るシステムなんですが、中には在庫表示に「百年」と出ちゃったモノもあった(笑)。私が仕入れた日立のある部品なんて、1ヶ月に5000個も6000個も売れたので、思い切って3万個仕入れたら、1ヶ月に10個しか売れない。これは申し訳なかったですね。でもね、それが震災後に昔のICが必要だということで、ある業者さんが全部買ってくれたんですよ。まあ、自慢できる話じゃありませんが。

売れ行き絶不調の商品も含め、秋月の独特のラインナップは、電子部品の無限の可能性を信じた辻本氏の産物だ。そのラインナップに、同じ感覚を共有するファンが反応し「もっと、もっと」と店に要求を突きつけ、辻本氏はそれを実現していった。秋月のラインナップは客参加型といっていい。この店ならなんとかしてくれる、応えてくれる、やってくれる。客を「モノ申したくなる」ファンに育てた店は強い。何より幸福だ。

●次回予告
専用ICがなくなっていくと売るものがない。そこで辻本さんは思い切った仕入れを断行した。皆が見向きもせず、当初はまったく売れなかったヒット商品とは。次回《辻本昭夫「電子部品」仕入れでの冒険》、10月29日更新予定。

(撮影=松田健一)