顧客情報は、清々しく「すべて焼却処分」

辻本昭夫さん(略歴は第4回
http://president.jp/articles/-/10921
参照)。

ネットショップのオープンから12年。秋月電子通商はいまでは年商の8割をオンラインで売り上げる。さぞかし、ネットを駆使したマーケティングに力を入れているのだろう。そんな先入観は見事に覆された。何もしていないのである。

【辻本氏】たまにお客さんに顧客情報をマーケティングに使っているんでしょうって聞かれるんですが、ウチは顧客情報については全部焼却処分しています。昔からそうですね。よく顧客情報は財産だとか言われるけど、こんなちっぽけな会社で誰かに顧客情報を持ち出されたら、そっちのほうがリスクが大きい。

以前は、サーバを自前で管理していましたが、セキュリティコストがかかるので、サーバセンターに任せました。サーバにデータは残りますが、二重三重のセキュリティをかけて容易には持ち出せないようになっています。認証しないと外に出られないんですよ。

書類は一定期間が経過したら焼却して証明書を出させてます。だからDMは送らない、というか送れない。お客さんがそうしてくれと言ってきたことをやっただけですけどね。COCOM(対共産圏輸出統制委員会)の調査で「中を見せろ」と言われたときに「これこれこういう事情で出せないんだ」と説明したら、「これが正解ですね」と褒められたこともありました(笑)。

顧客情報を使って、もっとお客さんとやりとりとしていれば売り上げは伸びたのかもしれませんが、データがひとり歩きしたら怖いじゃないですか。まあ、怖いから逃げているだけなんですけどね。

顧客属性を踏まえて、One to Oneのコミュニケーションを強化し、DMを送り、ポイント制度を導入し、といった凡百の顧客マーケティングを一切無視する姿勢は清々しい。この清々しさは、ソーシャルメディアについても同様だ。自主的な取り組みはゼロ。ほぼ自由放任主義を貫いている。

【辻本氏】新しい商品の仕入れについてはネットを活用していますが、それ以外は何もやっていません。でも、ありがたいことに、新商品を出すとその1時間後には、お客さんがtwitterに情報を流してくれるし、2ちゃんねるの「秋月、千石、若松などを語るスレ」(千石、若松は秋月電子同様の電子部品専門店)にすぐスレッドが立つんですよ。

twitterや2ちゃんねるに関しては、営業部長に見てもらっていますが、値段や記述ミスについてチェックする程度ですね。ついこの間も、メーカーのつづりが間違って2ちゃんねるに出ていたので、修正を入れていました。やるのはそれぐらい。