ものづくり大国・日本だからできる商売

会長の辻本昭夫さん(左)と、社長で息子の辻本信昭さん。

創業から53年。歴史を振り返り、未来を語る辻本氏は「大の買い物好き」でもある。八潮の通販センターには電動台車もあれば、電動リヤカーもあった。日産の電動自動車リーフも3台所有している。新しい技術、イノベーションに目がなく、面白い製品があると自分で試してみずにはいられない。好奇心と挑戦心が服を着たような64才は、インタビュー中、何度も何度も2つの言葉を口にした。「楽しい」と「夢」だ。この2つの言葉は、日本のエレクトロニクス産業の歴史そのものでもある。

【辻本氏】ウチのお客さんの中心はメーカーエンジニア。彼らが試作・評価のためにウチの商品を買っていく。日本の企業は不景気になっても、そう簡単には工場をクローズしないからありがたかったですよ。アメリカだとすぐに工場を閉めちゃうでしょう。日本は会社がつぶれるところにまで行けば別ですが、次の研究のために新商品をつくろうとするから、うちの商品を使ってもらえる。逆に、景気が上がっても、売り上げがどーんと増えることはないけどね(笑)。メーカーが基礎研究に熱心だったからこそ、うちのような商売もずっとやってこらたのかもしれないなあ。試作品の需要はこれからもなくならないと思いますよ。だから常にアンテナを張ってないとね。足を止めたら終わりです。

秋葉原に来た外国人は、どうして秋月電子のような店が成立するのか驚くそうだ。小さな小売店がIC1万個を売るなんて普通じゃない。そう感じるのだろう。だが、尋常ではない店、それが秋月電子だ。「足を止めたら終わり」の店は、日本のエレクトロニクス産業を映し出す小さいが精度の高い鏡である。

●次回予告
子どもの人身売買の実態を知って衝撃を受けたのが、大学1年生のときだった。いてもたってもいられなかったその女子大生は、知識も資金も人脈もないまま活動をスタートさせる。どうして10年以上も続けてこられたのか。次回《村田早耶香「人道NPO」徒手空拳の女子大生》、11月11日更新予定。

(撮影=松田健一)