「もっと大胆に丸くしてほしい」
ここから、完璧な製品を仕上げる半端ない情熱をもったジョブズの片鱗を垣間見ることができる。焼き物に対する彼の好みもわかるのだ。
ジョブズは展示されていた四角い皿の前に行って、「もう少し小さいものを作ってほしい」と言った。一辺が24センチの皿を「こうしてほしい」と指で示したので、釋永さんが物差しで指と指の間を測ると22センチだった。
ジョブズは皿のデザインにこだわりがあった。
「角を丸くしてくれないか」
釋永さんが「これぐらいですか」と言って、紙に四角い皿を描いて角にカーブを描くと、ジョブズはそのボールペンを自分に持ち替えて、さらに丸みのあるカーブを描き込んだ。
「もっと大胆に丸くしてほしい」と。
釋永さんはジョブズの角を丸くするデザインへのこだわりを評価している。
「チャーミングだと思いますね。角が少しなで肩になっていたり、カーブがゆるやかにあったりすると、手のひらで覆いやすくなります。手に持った感触は、角があるのとないのとではだいぶ違うと思います」
iPhoneのアプリアイコンにそっくりな皿
しかし、ジョブズのこだわりは、それだけにとどまらなかった。
「皿の半分は黒くしてほしい。もう半分は土のまま焼いてほしい。そして、黒と土の間には変化も欲しい」と注文した。
釋永さんの理解によれば、ジョブズは人工的に作る黒と土味を出すその中間に、もう一つ別の世界を求めていた。自分の意思で作る黒、窯の中で土が火と出会って自然に焼かれて出る土味、そして、二つの間の緩衝地帯を合わせた焼き物の自然な風合いをとても大事にしているようだった。
彼は、窯の中の炎によって土や釉薬が変化した焼き物の景色と呼ばれる表情について、一つの皿に「何か所か入れることはできないか」と質問した。「同じものをたくさん作れるか」とも聞いた。それは、まるで同一の工業製品を造るかのようなリクエストだった。
これにはさすがの釋永さんも、「無理だ」と断った。釉薬をかける工業生産的な発想とともに、自然な要素というものも求める注文だった。
当時を思い返して釋永さんが言った。
「ジョブズさんが亡くなったあと、iPhone4Sを手に入れて、『メモ』というアイコンを見たとき、僕に注文したのがこんなようなものだったと思いました」


