「黒ひげ危機一発」のルールは“逆”だった
「ひつまぶし」の話は、まさに“発想の転換”によって生まれたセンスの象徴でした。足りない素材を活かし、常識をひっくり返すことで、まったく新しい価値を創造した。つまり、発想の転換とは「ものを反対側から覗く力」なのです。
そしてその延長線上にあるのが、「逆転のセンス」です。発想を少し変えるだけで価値が生まれるように、常識を“逆さにしてみる”ことで、世界の見え方そのものが変わることがあります。センスとは、時に“逆を見る勇気”なのです。
私が「逆転のセンス」という言葉を聞いて最初に思い出すのが、あの誰もが知るパーティーゲーム――「黒ひげ危機一発」(タカラトミー)です。このゲームは、順番に剣を刺していき、樽の中にいる黒ひげの親分が勢いよく飛び出したら負け、というシンプルなルールで長年親しまれてきました。しかし、その“負けルール”こそ、実は後から生まれた逆転の発想だったのです。
もともとのルールはまったく逆でした。1975年(昭和50年)の発売当初、黒ひげは「海賊の親分が縄で縛られ、樽に閉じ込められている」という設定で、プレイヤーが剣を刺して縄を切り、「親分を助け出す=飛び出させた人が勝ち」という“救出の物語”だったのです。
つまり、初代ルールは“勝ち”のゲームだったわけです。
発売20周年目に「飛び出したら負け」に
ところが、その後の大ヒットに伴い、ルールは時代の流れとともに変化していきます。発売翌年の1976年(昭和51年)から放送されたフジテレビ系の人気番組『クイズ・ドレミファドン!』では、黒ひげが飛び出した人が負け、または驚いたら負けといったルールが使われ、そのスリルとリアクションの面白さで、逆に“負けのイメージ”として浸透しました。
この流れを受けて、タカラトミー(当時トミー)は1979年(昭和54年)に「飛び出したら勝ちまたは負け(遊ぶ前にどちらにするか決めてから遊んでください)」という折衷ルールを採用。
そして、1995年(平成7年)の発売20周年の節目に、ついに正式なルールとして「飛び出したら負け」を定義しました。つまり、誕生からわずか20年の間に、“勝ち”から“負け”へとルールが完全に反転したのです。
にもかかわらず、その人気は衰えるどころか、世界47の国と地域で累計2000万個が出荷されるまでに拡大。ルールが逆転しても、ゲーム自体の魅力は少しも損なわれませんでした。
むしろ、「いつ飛び出すかわからないドキドキ」が、世代や言語を超えて共有できる普遍的な楽しさになったのです。そして、2025年。発売からちょうど50周年を迎え、タカラトミーは、原点に立ち返る大きな決断をしました。

