「飛び出したら勝ち」にルールを戻した
同年7月5日に発売される7代目「黒ひげ危機一発」から、ルールを再び「飛び出したら勝ち」に戻すと発表したのです。昭和50年の初代ルール「黒ひげの親分救出スタイル」への原点回帰です。
タカラトミーはその発表でこうコメントしています。
「“負け”ではなく、“勝つ”という普遍的な楽しさをもう一度届けたい。黒ひげはこれからも飛び続けます!」
この言葉には、単なる懐古ではなく、“原点を今の時代に合わせて再構築する”という意志が感じられます。それは、「勝ち負け」という単純な二元論ではなく、「楽しむこと」そのものをもう一度価値の中心に置く試み。
“負け”を“勝ち”に戻したのではなく、“楽しさ”を再定義した――。
つまり、「勝つ=楽しむ」「勝つ=笑う」という普遍的な人間の感覚に立ち返ったのです。50年という時を経て、黒ひげは再び“センス”をまとって飛び出しました。
「黒ひげ危機一発」のルールの変遷は、まさに「逆転の美学」を体現しています。“助ける”から“驚かせる”へ、そして再び“助ける”へ。その都度、社会の感覚や時代の空気に合わせて変化しながら、本質的な「ハラハラドキドキ」という楽しさだけはずっと変わらない。
センスとは、時代に合わせて形を変えながらも、“人が心地よく感じる原点”を見失わないこと。「黒ひげ危機一発」の歴史は、それを見事に証明しているのです。
Apple Watchと「右手の常識」
センスは日常の中にも潜んでいます。たとえば、腕時計を右手に着ける人が増えているのを知っていますか? 子どもの頃、私は「右利きの人は左手に時計を着けるものだ」と祖父に教わりました。
右手はよく動かすので壊れやすい――そのため時計は左手。これは長年、世界中で共有されてきた“腕時計の常識”です。しかし、Apple Watchの登場で、その常識が見事に逆転しました。
今や右利きの人が右手にApple Watchを着けることが増えているのです。理由は意外にもシンプル。Apple Watchを使って電車に乗るときに、モバイルSuicaなどでタッチ決済をしようとすると、改札の読み取り機は右側にある。右手に着けていたほうがスムーズに通過できるからです。
便利さのために「腕時計の常識」を変えた。それは、デザインでもファッションでもなく、機能と動線の変化が生んだセンスの逆転でした。
Apple Watchは“新しいテクノロジー”であると同時に、“人間の行動のアップデート”でもあります。かつての「左手は正しい」が、今や「右手のほうが便利」へ。その柔軟な適応こそが、現代的センスの本質です。

