「貼らないカイロ」の誕生

もう一つの面白い逆転は、「携帯カイロ」です。1975年(昭和50年)に旭化成が開発し、1978年(昭和53年)にロッテ電子工業(現・ロッテ)が全国販売した「ホカロン」、そして1989年(平成元年)には「ホカロン貼るタイプ」が登場しました。

秋山具義『こうやって、センスは生まれる』(SBクリエイティブ)
秋山具義『こうやって、センスは生まれる』(SBクリエイティブ)

この通称「貼るカイロ」の登場によって、それまでの普通のカイロは“新しい呼ばれ方”をされるようになります。それが――「貼らないカイロ」です。

もともと“貼る機能”などなかったのに、新商品が出たことで、既存のカイロが「貼らない」と呼ばれるようになった。さらに調べてみると「貼れないカイロ」(アイリスオーヤマ)という商品まである。ここまでくると、もはやネーミング自体がユーモアの領域です。

これは、「便利さ」が進化した結果、元祖が“逆方向の名前”を背負うことになったという、切ない逆転です。でも考えてみると、ここにもセンスがあります。

“新しい価値が生まれた瞬間、古い価値が別の言葉で再定義される”――これこそ、言葉が時代とともに生きている証拠です。便利になった裏で、名前がねじれ、文脈が変わる。この「ねじれ」こそが文化の味わいであり、センスのある人はそのねじれを“楽しめる人”なのです。

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