生命保険会社の営業とは、どのような仕事なのか。半沢直助著『かんぽ生命びくびく日記』(三五館シンシャ)より、営業成績優秀な社員が不正に手を染める瞬間を紹介する――。
保険営業における「大きな関門」
ゴールデンウイークに休日出勤し、吉井代理とあるお宅を訪問した。70代男性・春日さんはかんぽの既契約者。事前にアポイントを取っていたことから、同居する娘さんも同席していた。
「このところ、ずいぶん暑くなってきましたねえ。今年の夏もかなり暑くなりそうですよ。元気に乗り越えないといけませんね」
初対面でもフトコロに飛び込むのが吉井代理のやり方だ。
「今回、新しい特約ができたんよね。春日さんの主契約を見ると、いかんせん保障の額が少ないんですよ。娘さんに少しでも残してあげられるよう、せっかくだから主契約ごと乗り換えちゃうのも手だと思うんやけどね」
吉井代理の話し方には押しつけがましさがなく聞きやすい。同席している娘さんもうんうんうなずきながら会話を聞いている。
「お父さん、いいんじゃない? 吉井さんの言うとおりのやつにしたら?」
「そうかね」
横で見ていて感じるが、春日さん本人は保障の中身が乗り換えによってどう変わるかまできちんと理解しているとは思えない。とはいえ、ひと通り契約内容を説明し、娘さんも納得しており、その部分で営業方法としての問題はない。
話はとんとん拍子に進み、契約の手続きとなった。私がタブレットの設定をして、春日さんに画面を向ける。専用のペン(※1)で本人に記入してもらうのだ。
すべての保険営業では契約を結ぶ際に大きな関門がある。それが健康告知だ。
※1 専用のペン
このペンでないとタブレットは反応しない。ある猛暑の日、タブレットだけ持ってこのペンを局に置いてきてしまったことがあった。契約の段になって気づき、局に戻りペンを取ってお客のお宅に引き返した。汗だくの私をお客は憐れみの目で見ていた。

