エース社員の営業手法

喫煙部屋で“取材”しつつ寺尾の動きを観察しているうちに、彼の手法がわかってきた。得意とするのは「乗り換え契約」と「料済み契約」だ。

寺尾はかんぽ生命の既契約者をターゲットにしてアプローチする。20年満期の養老保険に加入していてもうすぐ満期の三井さん(68歳)が相手だ。

「三井さんに今入ってもらっているこの養老保険、本当にいいものにご加入されていますね」

まずはお客の既契約を褒める。これは保険営業マンの常道だ。

「ただ養老保険なので満期があるんですよ。満期の時点で結構なお金が下りてくる楽しみがあるんですけど、裏返せば、その時点で保障が終わってしまうんです。そこで一生涯の死亡保障ができる終身保険というものがあります。一生涯の保障だとご家族も安心できますし、こちらに乗り換えてみませんか?」
「たしかに死ぬまでの保障のほうが安心かもね」

68歳でまだまだ元気な三井さんも乗り気になる。

笑顔の老夫婦
写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです

“負担なく?”高額保険に誘導

「既存の養老保険を解約していただくと解約返戻金が350万円くらい(※8)戻ってきます。すごくよい時期に入ってもらっていたご契約なので戻りの額がすごいんですよ」

昔の保険は積立利率がよく、必然的に解約返戻金も膨らんでいる。高齢者ほど高額な保険を契約しているケースが多い。以前のかんぽ保険は積立利率も高く、「貯める手段」として契約している人も多かったからだ。

「新しい保険が不成立となってしまうと無保険の状態になってしまいます。大事なお客さまである三井さんのためにもそれは避けたい。なので、新契約成立を確認してからの解約のほうが安心です。新しい契約の初回保険料引き落としは来月下旬ですから、今の保険の解約返戻金を原資に使うこともできます」

既存の養老保険を解約することで三井さんが手にする解約返戻金350万円を次の契約の支払いに使ってもらう。こうすることで「月額10万円」などという常識から外れた高額保険料の支払いがしばらくのあいだ可能になる。

ただ、支払い保険料が高額になるため、「もし払えなくなったらどうしよう」と心配するお客もいる。そういうときに持ち出すのが「料済りょうずみ契約」だ。

「2年とか3年で“料済み(※9)”にすることも可能ですよ」

「料済み」とはその時点で保険料の支払いをストップすることを指す。これによりお客は毎月の保険料を支払わなくて済むようになる。

「2年以上はがんばって掛けていただいて、その後ライフプランに沿ってどうするか考えてみるのがいいのではないでしょうか? その時点で料済みにしたとしても、しっかり保障は残るわけですし」

※8 解約返戻金が350万円くらい
既存の保険契約の解約返戻金はパソコンで検索すれば一発でわかるから寺尾はそれを頭にたたき込んである。
※9 料済み
保険“料”を支払い“済み”にすることから、郵便局員たちはこう呼んでいる