日米の平均賃金はほぼイコールなのに、企業のCEOや野球のスタープレーヤーには破格の年俸が支払われているということは、当然、その他大勢の人々の給与はその分低いということになる。

実際、アメリカのプロ野球チームは2軍、3軍、4軍まで持っているのが普通だが、最も下位のシングルAの選手の年俸は、日本の一流企業の新入社員の年収よりも、はるかに低いと言われている。つまり、アメリカでは貰う人と、貰わない人とのギャップが、ものすごく大きいのだ。

高給を支えるのはマニュアルで働く人々

では、そのようなギャップが生じるのはなぜだろうか。ここから先は私の推論になるが、多民族国家であるアメリカでは、多くの職種でマニュアルが高度に発達している。異なる文化を持つ人々の集団に仕事を教え込もうと思ったら──日本のように阿吽の呼吸など期待できないのだから──徹底的に論理的なマニュアルを作る以外に方法はない。マクドナルドが象徴的だが、アメリカ人が作るマニュアルは世界中どこでも、誰がやってもオペレーションができるような、高度な論理性を備えている。

つまりアメリカでは、ルーチンワークのほとんどが日本人の想像を絶するレベルでマニュアル化されているのである。だから、誰がやってもほぼ同じ成果が出せる。そして、同じ成果を出す人材は、イコール代替可能な人材だから、そうした人材の給与は低く抑えられるということになる。

反対に、余人をもって代え難い、能力差が成果に大きく反映するような仕事、たとえば企業の経営者や野球選手や営業職、トレーダー、さらには研究者などには、高額の報酬が支払われることになるのではないか。

こう推理をしていけば、ダルビッシュが6年間で50億円近いべらぼうな年俸を受け取ることも理解できる。

ここまで私の推論をお話ししたが、ダルビッシュの年俸のニュースを聞きながらこうした推論を展開するのに必要な数字は、日本とアメリカのGDPと人口だけである。

小宮一慶●1957年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。米国ダートマス大学エイモスタック経営大学院留学(MBA)。96年小宮コンサルタンツを設立。著書に『1番わかる!ロジカルシンキング』(PHPビジネス新書)、『ビジネスマンのための「数字力」養成講座 』(ディスカヴァー携書)など多数。
(構成=山田清機 撮影=市来朋久 写真=ロイター/AFLO)
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