100を超える評価項目で適正年俸を決める

壮大なる実験である。球団創設5年の楽天野球団がプロ野球界を変えようとしている。これまで採算度外視、親会社の道楽のような経営が多かったプロ野球の世界にシビアな「球団経営ビジネス」を持ち込んだのだ。

パ・リーグの昨シーズンをみれば、話題は東北楽天ゴールデンイーグルスだった。野村克也前監督の「ぼやき」人気もあってメディア露出で他を圧倒し、リーグ2位で初めてクライマックスシリーズ(CS)に進出した。

「よくできた年というか、できすぎた年でした」。東京・品川の楽天本社の3階応接室。紺のスーツのボタンをきちんと留めた球団社長兼オーナーの島田亨は昨季をそう総括した。人材サービス会社「インテリジェンス」創業メンバーの44歳。新品のパソコンのごとき、清潔感がただよう。

テーブルには携帯電話がふたつ並べられ、時折、ぶるぶる震える。躍進の理由を聞けば、ふっと笑みを浮かべる。

「強化方針をぶれずにやってきたからだと思います。プロスポーツなので華やかなチームをつくるというのは大事ですけれども、選手を評価して獲得する。もしくは評価に対して報酬を払うのです。基本的にその選手のアスリートとしての側面だけを評価してやろうとしています」

つまりは「費用対効果」である。人気や経験、恣意的なものを極力排除し、選手のパフォーマンスを重視して対価を払う。だからだろう、支配下公示選手の年俸総額はパ・リーグでもっとも低い約16億円(日本プロ野球選手会調査)ながら好成績を残した。簡単にいえば、コスト・パフォーマンスがよかったということになる。

どだい選手の年俸の多寡の統一ルールなどない。あるのは球団の方程式、いわば査定である。楽天は独自の100項目以上のきめ細かい査定、評価を実践することで、適正な選手年俸を維持しようと努めているのである。

そうならば、野村前監督の交代もよくわかる。創設1年目に97敗と惨敗したあと、楽天は野村監督に指導・育成を託した。寄せ集めの弱小チームに「考える野球」を植えつけた。

だが、昨季、野村監督の続投の願いをやんわり拒んだ。人気を考えると、「あと1年延長」と考えてもよかったではないか。なぜだろう。