人員整理を精一杯やって残るは優秀な人材ばかり。これ以上切りたくないが、不況で業務量が足りない。そう頭を抱える経営者に、朗報である。余剰人員を「在籍出向」の形で預かって鍛える画期的な仕組みを紹介する。
入社1年目はとにかく売れたのに不況が直撃
久保井智裕さんは26歳の営業マン。「とらばーゆ」など、リクルート社の求人メディアを中心とした広告代理店、フロム・エージャパンに入社して3年目だ。
入社1年目はとにかく売れた。新人賞や優秀賞などの賞も取った。
ところが、最近の不況は求人業界を直撃。久保井さんの成績も低迷した。
「不況のせいだけではない。自分のやり方に問題があるはず。でも、今までのやり方のどこがいけないのか?」
悩む日々を送っていたところ、金子孝暎社長から呼び出しがかかった。
「セレブリックスという会社に半年間『在籍出向』して、他流試合で鍛えられてこい」
「3年目の壁」にぶち当たって悩む久保井さんの様子を見ていた金子社長は、在籍出向者の対象として真っ先に彼を挙げていた。壁を越えるための、いいチャンスになると考えたのだ。
「『転勤したときがカツラをかぶるチャンス』と言うだろう。出向先におまえを知る人はいない。これは自分のキャラクターを変えてみるチャンスだ。半年やってみて、うまくいかなければ元に戻ればいいし、うまくいったら新しい自分で戻ってくればいい。フロム・エージャパンの一員である誇りを持って、セレブリックスでしっかりパフォーマンスを発揮してこい」
金子社長は、こんな言葉で久保井さんを送り出した。
久保井さんは、「自分を変えるきっかけを探していたので、とても嬉しかったです。とにかく抜群のタイミングでした」と振り返る。
図のように、出向者は元の会社に在籍したままで営業専門のコンサルティング会社であるセレブリックスに半年間出向する。セレブリックスから出向元企業に出向負担金が支払われ、給料は出向元から出向者に支給される。久保井さんは、その出向者の一人となったのだ。
セレブリックスは、スキルの高い営業マネジャーや営業部隊を企業に派遣してチームを立て直す「営業代行サービス」などで業績を挙げている。
最近は、不況によるコスト削減の一環で、この営業代行ビジネスの引き合いが増加。新規営業は外注して変動費化し、自社の営業マンは既存顧客の対応に集中させるという戦略を取る企業が増えているのだ。セレブリックスでは、アプローチ先のリストアップやアポ取りのための電話営業、訪問営業などの新規開拓営業のチームを抱え、このようなニーズに応えている。しかし、即戦力の営業担当者の採用が追いつかないという課題も抱えていた。
そこで、企業の余剰人員を在籍出向者として受け入れ、営業代行サービスを担う営業マンとして鍛え直して活用する仕組みを2009年7月に始めたばかりだった。
セレブリックスの社長でCOOの櫻井富美男さんは、この事業を始めた背景についてこう語る。
「各企業が採用を手控える中、人材サービス系企業の営業が苦戦していることはよく知っていました。すでに人も減らして、企業体質を筋肉質に変えていると聞いていたので、今いるのは若くて優秀な人材ばかり。辞めさせることはできないはずです。これはお互いにとってメリットのある仕組みができるのではないかと考えました」
しかも、人材サービス系企業の営業は、あらゆる業界を対象にしており、新規開拓営業に強い。セレブリックスにとっては、ニーズの高い新規開拓営業の即戦力を得られるし、出向元は、不況で市場が停滞し業務量が減少している間に若手営業を社外に出し、OJTで幅広い商材の営業経験を積ませることができる。