就任14年目にして大学ラグビー日本一に輝いた帝京大学の岩出雅之監督。岩出監督に会うためクラブハウスを訪ねると、玄関は塵ひとつなく掃き清められていた。「あいさつ、そうじ、規律が大切……」が監督のモットーである。
毎年有力校が優勝するなかに風穴を開けたい
チームとは生き物である。会社もだが、大学スポーツを見ると、つくづくそう思う。躍進するチームには必ず、人間の成長があるものだ。
ラグビーで初の大学日本一に輝いた帝京大学もそうであろう。何かと伝統校が幅をきかすラグビー界にあって、今季、ルーツ校の慶応大学や、人気の早稲田大学、明治大学などを破った。
学生の成長を促すものは、職場同様、「組織の風土」である。創部40年。監督の51歳、岩出雅之は言う。
「何事も、1日にしてはならず、です。大事なのは情熱と根気ではないでしょうか。歴史の積み重ねのなかで、やっとクラブの風土ができてきたのかな、と思います。未来に向かって礎が少しずつ固まってきました」
歓喜の胴上げから数週間経った1月下旬。京王線の聖蹟桜ヶ丘駅で降り、車で15分のクラブハウスを訪ねる。玄関を入ると、靴箱は整頓され、下には泥土ひとつなく、清掃されていた。
強いチームはまず、寮やクラブハウスの玄関を見ればわかる。右手の白ボードには「玄関」「ゲタ箱」「廊下」「すみずみ係」の当番区域と学生名が黒マジックで書き込まれている。
学生とすれ違えば、だれからも「こんにちは」と声をかけられる。
「あいさつ、そうじ、規律が大切だよ、とは時々、言っています。面倒くさいことをきちっとやることは結構大事ではないでしょうか。それを上級生が見本となって実践し、下級生に意義を語ってくれるようになりました」
130人もの若者が全員寮生活するクラブにあって、ディシプリン(規律)・規範は必要だろう。組織で人が関われば「チーム愛」が醸成されていく。
他大学とちがって、帝京大のチームスローガンは何年も変わらない。『エンジョイ』と『チームワーク』。
「簡単で長持ちする言葉がいい。エンジョイとは、自分の目標とか喜びに全力で向かっていく考え方。自分だけでなく、チームでエンジョイする。一足す一が二でなく、相乗効果で三になる。それがチームワークなのです」