分社18年で従業員が1800人から2万人以上に増えたNTTドコモ。給与や昇進・昇格に差をつけない「全員野球」を標榜する同社において、社員のやる気を保つ秘訣は“仕事の与え方”にあった。
2万人の大組織にベンチャー精神を根づかせるには
老舗の巨大企業が分社して新規事業に進出する場合、成功する秘訣とは何か――。
資本力や技術力にも増して重要なのが「人材力」だ。何より長年染みついた本体依存のしがらみ体質を払拭しなければならない。人材活用の成否は、旧文化・風土に代わる新たな理念の下、いかに社員を結束し、チャレンジブルな体質を構築できるかにかかっている。
一つの解を1992年にNTTから分社したNTTドコモに求めることができる。独立当時、1800人にすぎなかった社員は今や、グループで2万人を超え、営業収益4兆4480億円、営業利益8310億円(2008年度)を誇る企業に成長した。
社員はもともと電電公社という親方日の丸体質の会社の出身である。創業時の主な収益源はポケットベルだった。移籍した社員にとっては「30万人の会社から1800人の会社に移り、誰もが、えらく小さな会社だなと感じた」(田中隆取締役執行役員・人事部長)としても無理はない。
しかも新しい会社の名前が「ドコモ」。do communications over the mobile network(モバイルネットワークで豊かなコミュニケーション)の頭文字をとって命名したものだが、珍妙な名前に社内外に違和感を持つ人も多く「NTTの子どもだからドコモか」と揶揄されたこともあった。
そうした状況下にもかかわらず、何が社員を駆り立て、これだけの成長を遂げられたのか。一つは「いつでも、どこでも、誰とでもつながる新しいコミュニケーション文化の創造」という企業理念への共鳴であり、もう一つは、意欲の受け皿となる仕事の中身にあったと田中部長は指摘する。
「人が少ないために、仕事の分量はものすごくありました。少なくともムダと思われる仕事はやらないというよりできない。仕事の中身も一担当者レベルでも、1つあるいは2つ上のポストの仕事をしていましたし、決定権も各人にあり、いちおう上司に相談しますが『おまえに任せるよ』とよく言われました。仕事にやりがいを感じていましたし、その中から自分で考え、自分で行動するという風土が醸成されてきました」