給与に格差をつけず、あくまでも「全員野球」を貫く
昇格に限らず給与も格差が開きすぎると、給与の低い社員のモチベーションが下がる可能性もある。近年の成果主義批判も格差拡大による弊害としての生産性の低下という観点から論じられている。じつは同社も管理職のボーナスについては成果業績評価に基づく厳格な配分を行っていた。ボーナス原資の枠内で部署ごとに社員の優劣を明確化した評価分布に基づいて金額を付与することになるが、いやが応でも格差が生じる仕組みであった。そうなると、業績を定量化できない、あるいは人数が少ない部署ではどうしても不満が発生する。
そのため数年前に制度を見直し、原資の枠内で、評価の配分の仕組みを組織長の裁量に任せることにした。結果的に部署によっては、あまり格差を生じさせない配分にすることも想定されるが、組織長にはおおむね好評という。
「以前は高い評価の人と低い評価の人との差がつきすぎていたために、評価のフィードバックも難しい面がありました。売り上げなどの数字で目標を立てられる部署はやりやすいでしょうが、数字に表れない部署をどうしていくかという課題もあります。最終的には組織長の裁量に任せることで部内の社員の納得が得られればいいのではないかと考えています」(田中部長)
昇格格差が開きすぎる問題点の指摘と同様に、給与にメリハリをつけることにも必ずしも与しない。こうした考え方に異論を唱える人もいるだろう。とりわけ外資系企業に代表される成果業績を重視する企業であれば、パフォーマンスを正確に評価し、貢献度の高い社員に多くの報酬とふさわしい地位を与えることで仕事に対する意欲を高めることが本当だろうと反論する向きもあるかもしれない。
こうした意見に対して田中部長は「確かにパフォーマンスが高い人間と低い人間は出るし、高い人間に対して相応の報酬を支払う会社もあるだろう。『自分はこれだけやっているのにドコモにいてはこの額しかもらえない』と言って出ていく優秀な社員がいてもしょうがないと思っている。もちろん残念ではあるが」とあえて否定しない。