元気になる目標設定は「7割の法則」で

帝京大の強みは「コンタクト力」、すなわちフィジカルの強さである。大学選手権の決勝では、ボール争奪戦の基本となる接点で東海大を圧倒した。

相手と頻繁にぶつかるフォワード8人の平均体重が104キロ。数字だけでなく、分厚い胸板、強靱な足腰は見ていて惚れ惚れする。どうして、これほどたくましい体をつくれたのか。そう聞くと、岩出は「根気」と答えた。

「体づくりは根気が大事なんです。体はお城の土台みたいなもの。ぼくは体と心がしっかりしていないと、技術が上に載っていかないと思っています。食事にしても筋トレにしても、気持ちがない子にはつくれませんから」

何事も根気がものをいう。それは企業の営業力にしてもそうだろう。職場の向上心も、クラブの風土も、時間をかけて根気よくつくっていくしかない。

ここで目標設定がポイントとなる。「7割の法則」。チーム全体のモチベーションを高めるためには、7割が大事であると岩出は説明する。

「学生をざっくり分けて、何も言わなくてもしっかりやる子と、逆に言ってもやらない子、その間でどちらかに流れる子に3分割するとします。ま、3・3・4としておきましょう。間の流される4割を、何も言わなくてもやる3割のほうに加えるためには、全体の7割が達成できることを課題設定のスタンダードにするのです」

例えば、ベンチプレスの目標を3割が可能な120キロとしたなら、空気が萎えてしまう。7割程度が持ち上げられる80キロなら、活力が醸し出され、次は85キロ、90キロと増えていく。

「要は指導者が最初に最高の目標を学生に与えないことです。段階を踏んで設定していく。7割ができる形にすると、やる気が蔓延する。7割ができないと、チームの空気が悪くなるのです」

つまり目標設定は7割を基準とし、残りの3割には別の課題を設定してやる。さらに能力の高い学生にも個別に高い課題を設定する。これは筋トレだけでなく、ボール技術も同様である。

「7割ができれば、残りの3割は自己反省しますよ。個別に面談的なことをすれば、自ずと変わってきます」

ここで欠かせないのが、コミュニケーションである。個別面談のほか、岩出は常時、学生に声をかけていく。クラブハウスの廊下で外国人留学生のジョシュア・マニングとすれ違えば、笑顔で「からだの状態は?」と。

携帯メールも利用する。気持ちの整理をしてこい、など、短く打つ。

「上位3割、中の4割、他の3割とアドバイスは変わってきます。旬のネタを織り込みながら、個人のターゲットを提案していきます。例えば、“体がでかくなってないねえ”だけでもいい」

ところで大学のチームにとって、学生の勧誘はポイントだ。他の強豪チームと同様、大学の推薦入学や奨学金制度を活用する。

おおきな体格の選手を獲得するため、岩出は海外にも視察に出かけた。現在、3人のニュージーランド留学生を擁する。ただ特別扱いはしない。

「いい学生にきてもらうためには、信頼とフットワークが大事です」