じつは帝京大の主将、コーチ選びは変わっている。4年前から、「学生コーチ」を制度化した。新4年生はまず、ミーティングを開き、2人の学生コーチを話し合いで選出する。

毎年、これが難航する。そりゃそうだ。学生コーチになれば、自身のレギュラーの道は遠のく。今季など、1週間、連日、朝昼晩と議論を重ねた。

学生コーチを決めた後、新4年生は新キャプテンを選出する。こちらは比較的、簡単に決まる。狙いは、4年生の立場、役割を自覚させることにある。

「4年生が主将、コーチを選ぶのだから、4年生が責任を持ってサポートすることになるのです。学生コーチをつくって、見えないところが少なくなった。意思疎通が密になりました。早期発見、早期対応です」

つまるところ主役は学生なのである。学生主導なのだ。学年ごとにボードと呼ばれる幹部委員会があり、4学年全体のボード会議もある。全体ミーティングのときにしか、岩出は参加しない。

「大学って体験の場です。環境設定と、いい体験をさせるのが大事です。ぼくらは学生がどのような意識を持っているのかを観察するのが必要なんです」

ところで優勝の夜の祝勝会のことだった。最後は「監督コール」に促され、岩出がカラオケのマイクを握った。自身の声に学生たちの声が重なった。

「至福の時でした。ゲームに出られなかった4年生が喜んでくれて……」

2時間のインタビューが終わる。監督の岩出は真っ赤なロングダウンをさっと着込み、寒風のなか、グラウンドに駆けていく。坂をのぼり、芝生への入り口で一礼する。心でつぶやく。

〈きょうも学生と一緒にエンジョイするぞ〉と。 (文中敬称略)

(ライヴ・アート=図版作成)