「何かあったら鈴木が捕まってくれる」
上司や周囲に可愛げがあると思われるには、まずいつもニコニコして我を抑える必要がある。ただし、いい人だと思われるだけではだめだ。政治の世界では、「いい奴だ」は「間抜け」と同義である。
私は気性の激しいほうだが、中川一郎先生(元農林相、故人)の秘書となって最初の4年間は、大声を出したり、喧嘩をしないよう自分を抑えてきた。
ところが1973年8月に起きた金大中氏拉致事件の直後、日本テレビ「11PM」に中川先生と宇都宮徳馬代議士が生出演したときだった。当時中川先生は、金氏と対立する朴正煕(韓国大統領、当時)派と見られていて、宇都宮氏が「中川さんは朴大統領から金を貰っているから、大統領の擁護をするんだ」と言い放った。直後にCMに入ったから反論できない。スタジオで聞いていた私は激怒して、「コラ、宇都宮、いい加減なことをぬかすな」とCMの間に飛びかかっていった。放送後、中川先生は「鈴木、よくやった」と褒めてくれたが、それまで隠していた気性がこの一件でばれてしまった。しかし、時には激しく渡り合い、やるときはやる奴だと自分の新たな価値を示すことができ、さらに信頼を得ることになった。
もう1つ大切なことは、与えられた立場で頑張って努力すること。秘書になって結婚するまで3年半、私は365日休まず働いた。「今までの秘書とは違う」と、中川先生からの信用は深まっていった。努力に勝る天才なしで、人並みなことをしていたら人並みで終わる。人より一生懸命汗を流すことで信頼が増し、可愛い奴だと思われるようになる。
中川先生の秘書だった頃の私は、約20人の秘書を束ねていた。中川先生が中小企業の社長だとすれば、私は専務か総務部長にあたるのだろうが、そういう立場から考えると、阿吽の呼吸、つまりこちらが言わなくても先手を打って動ける秘書が「可愛い」奴。換言すれば気が利く、先を読んで行動できる人のことだ。