まず、これだけはいえます。どんな仕事でも、細部にこだわるのは「いいこと」だと思うのです。
たとえば「バイマ」のようなECサイトを設計するときに、画面上のボタンを何色にするか、商品写真の隣の一言を「BUY」とするか「BUY IT NOW」とするか。ささいなことのようですが、そのあたりの詰めを徹底的にやっておかないと、オープンしたときに印象が散漫なものになってしまいます。するとサイトの評判が上がらず、結果的にはビジネスの足を引っ張ってしまうかもしれません。
博報堂のマーケティング局に勤めていたころ、あるCMのプロジェクトでクリエーティブ局の有名ディレクターと仕事をしました。この人がまさに、「こだわりぬく」人でした。
「細部にこそ神が宿る。絶対おろそかにするな」が口癖で、たとえばCMの表現が9割がた決まっている段階でも、ひっかかるところがあれば、それまでの蓄積をひっくり返してまた一からやり直したりするのです。
僕自身は、CM制作に直接かかわっていたわけではありません。そんな「お手伝い」意識もあって、最初は「そこまでこだわらなくてもいいのに……」と、正直少し迷惑に感じていました。
しかし、クリエーティブのメンバーとの打ち合わせに朝の4時、5時まで付き合ううちに、彼らが「なぜ、そこまでするのか」がわかるようになりました。
こだわりすぎればブレーキに
広告表現の世界では、最後のひと踏ん張りや、最後に付け加えるほんのちょっとした工夫によって、驚くほど結果が違ってきます。そのために彼らは、中途半端を許さず、徹底的にこだわりぬいた仕事をしているのでした。
そしてリーダーであるディレクターは、その考えをチーム全体に行き渡らせるために、「最後のひと踏ん張りが大切だ」と繰り返し説き続けました。そうやって、チーム全員の目線を上げ、成果物の品質をとてつもなく素晴らしいものに磨き上げていったのです。
これはクリエーティブの現場にかぎりません。会社どうしの契約でも、細部の検討や最後の詰めをおろそかにすると、自社にとり著しく不利な条件で契約書を交わしてしまうおそれがあります。本質的なことであれば、細部には徹底してこだわるべきなのです。