“白いダイヤ”を求めて世界中の富裕層が殺到
秋になると、日本の山里では家族連れが栗拾いに興じる。軍手をはめ、イガと熊に怯えながら地面を這いつくばり、腰を痛めながら拾い集めた栗は1kg1000円。スーパーに並ぶ国産栗とほぼ同じ値段だ。「自分で拾った」という満足感だけが、唯一の付加価値である。
きのこ狩りはどうか。入山料を払い、ビニール袋片手に山中をさまよう。運が良ければシイタケやナメコが見つかるが、大抵は「このきのこ、食べられますか?」と管理人に駆け込む羽目になる。そして帰宅後、ネットで画像検索して「やっぱり食べないほうがいいか」と諦める。
一方で、億単位の資産を持つ富裕層の「味覚狩り」はまるで別世界だ。訓練された猟犬が地中80センチに眠る“白いダイヤ”を嗅ぎ分け、熟練ハンターが宝石を扱うように土中から取り出す。100gあたりなんと7万円――同じ「秋の味覚を森で探す」という行為なのに、栗拾いやキノコ狩りとは、文字通りケタが違う世界がそこにはあった。
今回、筆者はイタリア・ピエモンテの森で繰り広げられる「白トリュフ・ハンティング」を実際に体験してきた。富裕層がたしなむ秋のハイエンドトラベルを解き明かす。
人口3万人の街が「世界一のブランド」になった理由
舞台となるのは、北イタリア・ピエモンテ州にあるアルバという街だ。人口わずか3万人ほどの、普段は静かな古都である。しかし、毎年10月から12月にかけて開催される「アルバ白トリュフ祭り」の期間中だけは、街の景色が一変する。
街中のショーウィンドウというショーウィンドウが、エルメスのバッグでもロレックスの時計でもなく、「泥のついたキノコ」で埋め尽くされるのだ。ホテルは半年以上前から世界中のジェットセッター(プライベートジェットで移動するような富裕層)によって予約で埋まり、レストランは特別メニュー一色になる。
たった一つの食材で、世界中から富裕層を呼び寄せ、わずか数カ月で莫大な外貨を稼ぎ出す。これは、地方創生やインバウンド誘致に悩む日本の自治体にとって、究極のロールモデルと言えるだろう。彼らは「白トリュフ」というコンテンツを核に、宿泊、飲食、観光をセットにした「ガストロノミーツーリズム」を完璧に構築しているのだ。
では、なぜ「白トリュフ」でなければならないのか。「黒トリュフ」ではダメなのか。ここに、富裕層が熱狂する「経済学的な理由」がある。

