それは食材というよりも「トロフィー」
重量が大きくなればなるほど、その単価は幾何級数的に跳ね上がる。なぜなら、大きなトリュフは削って食べるだけでなく、その塊自体をテーブルの真ん中に置き、ゲストに見せびらかすための「トロフィー」としての機能を持つからだ。私が目撃したのは、食欲というよりは、富と権力を誇示するための「トロフィー・ハンティング」の最前線だった。
「Quanto costa questo piccolo tartufo bianco?(この小さいの、いくら?)」。マダムの眼光は、まさに獲物を狙う鷹そのもの。採集人も負けじと電卓を取り出し、今日の市場価格と品質を天秤にかける。周囲では観光客と生産者の白熱した値段交渉が繰り広げられている。気温10℃にもかかわらず、筆者は大汗をかいた。これこそ、トリュフ祭りの真骨頂である。
「この子にはそれだけの価値がある。大事に育てたんだからね」
採集人の強い言葉。単なる値段交渉ではない。品質への絶対的な自信と、森で過ごした時間への敬意が込められている。「それなら……」と、客は他の商品にも手を伸ばし始めた。トリュフに加え、ポルチーニ茸、ヘーゼルナッツ、チーズを次々とカゴに入れていく。
「富裕層のキノコ狩り」はスケールが違う
最終的に、マダムは複数購入することで提示価格より“お得”に、納得のいくサイズの白トリュフを手に入れることに成功していた。いわゆる抱き合わせ販売だ。展示会やマルシェではよく見かける手法だが、ここでは100g7万円の商品が対象である。スケールが違う。
会場の一角では、目の前で削られる白トリュフがタヤリンパスタを彩り、バローロやバルバレスコなどのイタリアワインがグラスの中で優雅に踊っている。チーズ、ヘーゼルナッツ、ポルチーニ茸。ピエモンテの秋が、五感すべてに語りかけてくる。「土の温かさと森の湿り気が詰まっている」――採集人の言葉通り、一口ごとに森の記憶が蘇る。これが、年に一度の“白い黄金”争奪戦の真実だ。
来年こそは、円高に転じることを祈りつつ、筆者は会場を後にした。だが正直なところ、為替レートよりも、あの鷹の眼を持つマダムたちとの交渉術を身につけるほうが先かもしれない。大阪のおばちゃんのレクチャーから始めるとしよう。


