富裕層は何に価値を見出し、何に投資しているのか。富裕層マーケティングを長く手掛ける西田理一郎さんは「北イタリア・ピエモンテ州では年に一度、世界中の富裕層が詰めかけて『白トリュフ狩り』が行われる。1kg約1600万円で落札されたこともあり、白トリュフはさながら富裕層の宝探しのようだ」という――。
イタリア・ピエモンテ州の「世界アルバ白トリュフ市場」
筆者撮影
イタリア・ピエモンテ州の「世界アルバ白トリュフ市場」

高級スーツを脱ぎ捨て、泥だらけで探す「白いダイヤ」

誤解を恐れずに言えば、それは「究極のキノコ狩り」だった。

ただし、スーパーのパック詰めより少しおいしいキノコを摘むのとはわけが違う。

ターゲットは、イタリア・ピエモンテ州の土中深くに眠る「白トリュフ」。100gあたりの市場価格は約7万円。黒トリュフの8倍近い値がつく、文字通りの“白いダイヤ”だ。過去には、1kgを超える巨大な白トリュフが競売にかけられ、香港の富豪が約1600万円で落札したこともある。舞台となるアルバのホテルは半年以上前から世界中のジェットセッター(プライベートジェットで移動するような富裕層)によって予約で埋まり、レストランは特別メニュー一色になる。

もちろん、彼らはカネさえ出せば、最高級の白トリュフを皿の上に山盛りにできる。だが、彼らはあえてそれをしない。高級スーツを脱ぎ捨て、泥だらけのブーツを履き、冷たい森の中を何時間もさまよう。

なぜか? 「7万円出せば買える」という事実は、彼らにとって退屈でしかないからだ。

金では解決できない不確実性、自分の手で宝を掘り当てる原始的な興奮、そして「あの白トリュフは私が獲った」と語れる物語。世界中の富裕層がイタリアの片田舎に殺到する理由は、この「非効率な泥遊び」の中にこそあった。

世界アルバ白トリュフ市場に鎮座する白トリュフ。アルバの町は人口3万人ほどだが、毎年10月から12月にかけて開催される白トリュフ狩りを目指し、富裕層がプライベートジェットに乗って詰めかける。
筆者撮影
世界アルバ白トリュフ市場に鎮座する白トリュフ。アルバの町は人口3万人ほどだが、毎年10月から12月にかけて開催される白トリュフ狩りを目指し、富裕層がプライベートジェットに乗って詰めかける。

自然、動物、人間が織りなす「奇跡」を掘り当てる

11月末、筆者はその実態を知るためにアルバを訪れた。「世界アルバ白トリュフ市場」を通り過ぎ、ピエモンテの森に足を踏み入れた瞬間、都会の喧騒がまるで嘘のように消えていく。「RACCOLTA DI TARTUFI(トリュフ採集)」――古びた木製看板を横目に、私は2頭の猟犬、ボーダーコリーのコヴァとモエと共に山の奥へと分け入っていく。彼らの鼻息が白く煙る。期待に満ちた瞳が、まるで「宝探しの始まりだ」と語りかけてくるようだった。

狩りを始めて10分後。山中を自由自在に駆け巡っていた2頭が、突然、ピタリと止まった。

地面に鼻を押しつけ、興奮したように前足で土を掻き始める。猟犬の嗅覚は人間の100万倍から1億倍ともいわれる。地中30cmから80cmの深さに眠る“白いダイヤモンド”、白トリュフのありかを、彼らだけが正確に嗅ぎ分けることができるのだ。

「ストップ!」ベテランハンターの鋭い声が森に響く。ここからが本番だった。一つの傷でも価値が半減する白トリュフを、まるで赤ん坊を抱くような慎重さで土中から取り出していく。その瞬間、ふわりと広がる芳醇な香り――。私は思わず息を呑んだ。これが、大地が人間に贈る至高の贈り物なのか。掘り当てたのはゴルフボールサイズを3個、しめて50ユーロ(9000円)だった。