人間の手では決して作れない”奇跡”
ご存知の方も多いと思うが、トリュフには「黒」と「白」がある。世界三大珍味として有名な黒トリュフ(フランス・ペリゴール産などが有名)は、近年の技術革新により、ホストとなる木(ナラやカシ)の根に菌根菌を定着させる「人工栽培(養殖)」がある程度可能になっている。つまり、計画生産ができる農作物になりつつあるのだ。
しかし、「白トリュフ」は違う。白トリュフはあまりに気難しく、特定の土壌、特定の湿度、そして特定の樹木との共生関係が複雑に絡み合い、いまだに人間のコントロールを拒み続けている。現代のバイオテクノロジーをもってしても、完全な養殖技術は確立されていない。
つまり、アルバの市場に並んでいるのは、すべて「自然からの偶然の贈り物」であり、再現性のない一点物なのだ。富裕層が熱狂するのは、単なる味覚ではない。お金の力でも、科学の力でも支配できない「完全なる自然」を手に入れる征服欲を満たしてくれるからだ。「買えないものはない」と信じる彼らにとって、「人の手では再現できないもの」ほど魅力的な投資対象はないのである。
「1kg1600万円」で落札される狂乱
「これがモンフォルテ・ダルバの丘の香りだ」
興奮気味にそう語る採集人の手のひらには、ゴルフボール大の白トリュフが鎮座していた。鼻を近づけた瞬間、脳天を突き抜ける芳香。バター、チーズ、湿った土壌が複雑に絡み合う、まさに“森の宝石”だ。
11月の最終日。会場である「世界アルバ白トリュフ市場」に到着すると、イタリア語、英語、フランス語、ドイツ語が乱れ飛ぶ国際色豊かな光景が広がっていた。だが、日本語を耳にしたのはわずか1組のみ。円安の逆風を受け、かつての日本人観光客の姿は見る影もない。「美食の聖地」への参加券は、今や為替レートが握っているのだ。
会場に立ち並ぶトリュフ販売スタンド。主役は言うまでもなく「ホンセイヨウショウロ」、通称アルバ産白トリュフである。この日の市場価格は、黒トリュフが100gあたり約8800円に対し、白トリュフは100gあたり約7万円。ちなみに、コンテストで高評価を得た逸品は、ほぼ確実にミシュラン星付きレストランへ直行する運命にある。
しかし、この「7万円」という数字すら、あくまで市場での小売価格に過ぎないことを知っておくべきだ。この祭りのハイライトである「世界白トリュフオークション」では、理性を失ったような価格がつり上がる。過去には、1kgを超える巨大な白トリュフが競売にかけられ、香港の富豪が約1600万円で落札したこともある。

