「退屈」な人を判定して美術館の広告を出す

たとえばThe Athleticには高級ブランドから金融サービスまで、幅広い企業から関心が寄せられ、大型契約やスポンサーシップを獲得。スポーツにおけるプレミアムスペース(価値が高い、特別な場所)の開拓に取り組んでいる。

あるいはWordleではプレイ画面上でさまざまなタイプの広告フォーマットのテストを行っている。人口統計や関心別の160以上のセグメント(顧客グループ)のポートフォリオ(組み合わせ)を構築することで、広告主にとって高いパフォーマンスを発揮する。ユーザーの閲覧行動履歴から、広告主はエンターテインメント、書籍、ソフトウェア、高級時計などに関心のある読者にリーチできるという。

また、自社で直接集めた顧客データ(ファーストパーティデータ)を使って、記事の内容とトピックに基づき、42の異なる感情と10の動機を網羅する広告やマーケティングのターゲットを絞るしくみも作り上げた。つまりNYTの記事やコンテンツが喚起した感情に合わせた広告を表示することで、広告主は記事の読者、コンテンツの視聴者に対して、より深い感情的または動機づけのレベルでリーチできるようにした。

たとえば「退屈」という感情でタグ付けされた記事に対して、退屈感をなくす解決策を提示するようなものとして、ある美術館のキャンペーン広告を表示した。これは非常に効果的なクリックスルー率(広告が表示された回数のうち、実際にクリックされた割合)となった(Joy Robins“How The New York Times’s subscriber-first mindset unlocks opportunities for advertisers”Marketing Strategies, 2024.3)。

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写真=iStock.com/franckreporter
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日本のメディアができること

予算やサービスの開発人材のリソースによっては「こんなのマネできない」「うちとは関係ない話だ」と思ったかもしれない。だが小企業でも参考にできることは少なからずあるはずだ。たとえば以下のようにまとめられる。

・データ駆動型の経営への転換

継続的なコミュニケーションをしていくために会員登録や無料ニュースレター登録をうながす。そして読者データ(購買データ)を蓄積し、行動分析やパーソナライズを推進する。

・サブスクリプションファネルの構築と最適化

自社のサイト上で提供するコンテンツの無料閲覧の制限や段階的なペイウォールを導入。ムリなく有料会員へ誘導する。また、ニュースレター、ポッドキャストなど多様な接点を用意し、中長期的に関係を維持する。

・バンドル戦略(抱き合わせ販売)とアップセル(上位プラン、追加サービス)

自社の強みやブランド資産を活かし、複数のコンテンツやサービスを組み合わせたバンドル商品を開発する。単体サービスのユーザーに対して、上位プランや追加サービスへのアップセルを積極的にしかける。