中国で日本生まれのヒーローが人気を博している。ノンフィクションライターの西谷格さんは「30代~40代を中心に、中国では幅広い世代でウルトラマンの知名度が高い。人気の背景には、皮肉にも円谷プロの版権トラブルが深く関係しているのではないか」という――。

ウルトラマンに関する疑惑の投稿

しばらく前に、旧知の編集者からこんな依頼メールが届いた。

8月末にXでとあるポストが話題になりました。中国でのウルトラマン人気を伝えるものですが、とりわけ目を引いたのは「習近平の子どももウルトラマンが大好きらしく、習近平が困っているらしい」という一文です。
「ウルトラマンはなぜ中国人の心を捉えたのか」「習近平は本当にウルトラマンを危険視しているのか」が気になるので、取材のうえ言説の真否を確かめていただけないでしょうか。

メール中にあったXの投稿を開いてみると、こう書かれていた。

中国人のカップルと話をしたところ
・中国でのウルトラマン人気が凄すぎる。子どもはみんなウルトラマンが大好きで、日本人が想像できないくらい大大大人気。
・習近平の子どももウルトラマンが大好きらしく、習近平が困っているらしい。

習近平の子どもには1992年生まれの一人娘、習明沢しゅうめいたくがいる。習明沢に子ども、つまり習近平の孫がいるかどうかは公的な情報がなく、分かっていない。

なお、中国の検索サイト「百度」で習明沢と入力すると「検索結果は見つかりませんでした」と表示される。習近平の子どもに関する情報は、国家の安全に関わる機微情報という位置付けで、容易にアクセスできない仕組みになっているのだ。

「ウルトラマンに困惑する習近平」がウソと言い切れないワケ

ウルトラマンを制作した円谷プロダクションは1991年に中国・上海にスタジオを設立し、1993年に上海のテレビ局「上海東方電視台」がウルトラマンシリーズを放送開始。ウルトラマンはこの時期から根強い人気を保ち、現在に至る。

福島県須賀川市に設置されたウルトラマンの像
福島県須賀川市に設置されたウルトラマンの像。スペシウム光線のポーズをとっている。(写真=Totti撮影/屋外美術/著作権者:円谷プロダクション/CC-BY-SA-4.0/Wikipedia

習明沢がウルトラマンについて公言した記録はないため、Xの投稿の真偽は不明だ。SNSによくある誇張や脚色と見て良いだろう。ただ、中国人との雑談のなかで「ウルトラマンって中国ではすごい人気でね、子どもはみんな大好き。きっと習近平の子どもも好きだと思うよ」といった会話が交わされることは考えられる。

少なくとも、習明沢を含む今の30代〜40代の中国人にとって、ウルトラマンが馴染み深いキャラクターであることは間違いないだろう。図書館で新聞社のデータベースを検索し、中国におけるウルトラマンの立ち位置を調べることにした。