※本稿は、一ノ瀬俊也『〈国防〉の日本近現代史 幕末から「台湾有事」まで』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。
「アメリカが日本を守る」の例外
台湾有事・日本有事は起こるのか?
この問いに対し、元空将の小野田治は中国の台湾への武力侵攻は沖縄戦やウクライナ戦争などの例からみて困難であり、可能性は低いが排除はできない。日本侵攻に先立ち、自衛隊や在日米軍、グアム、航行中の艦艇を攻撃する可能性はある。日本の航空基地やインフラもミサイルの目標である(小野田「『日本有事』はどのように起こるか」)。北朝鮮が韓国へ武力侵攻する可能性は低いが、日本にミサイル攻撃を行う可能性はある(同)。
日米同盟は有事にほんとうに頼りになるだろうか。植木(川勝)千可子は「日本に関する国民の高い支持と米国政府の宣言政策からすると、日本が中国から攻撃を受けた場合に、米国が日本の防衛義務を放棄する可能性は低い」「米国が最大の挑戦国と位置付ける中国に対して怯み、同盟国を守らないということがあれば、米国は大国としての地位を放棄することになる」。
「ただし、どのような場合でも米国が日本を守るかというと、必ずしもそうではないだろう。日本人が誰も住まない小さな島が攻撃に遭った場合、米国が自国民を派兵して守ることに世論が賛成するかどうかは、疑問である」という(植木「日米同盟再考」)。
沖縄本島のミサイル避難方法は「屋内退避」だけ
2025(令和7)年、米国トランプ政権はウクライナへの軍事援助を一時停止し、米国の同盟国であるNATO諸国に動揺がはしった。日米同盟だけが将来にわたって安泰という保証はない。
台湾有事を日本有事とみなして軍事力(防衛力)拡充を進める政府への批判は根強い。布施祐仁は、米国と一緒になって台湾への軍事介入をめざすもので、それでは日本全土が中国のミサイル攻撃の対象になると述べ、そもそも台湾侵攻の危機など存在するのか、「抑止力」一辺倒ではなく外交をと主張する(布施「虚構の「台湾有事」切迫論」)。
布施は、戦時の離島からの「住民避難」や「国民保護」は現実的なのかと問題提起する(布施「悲惨な地上戦が繰り広げられたアジア太平洋戦争末期の樺太戦の教訓」)。
この問題については、2023年3月17日、沖縄県庁で武力攻撃事態に対する初の図上訓練が実施された。しかし避難対象は先島諸島の住民11万人と観光客1万人のみであり、沖縄本島や周辺離島の140万人近い県民たちは屋内に退避する設定であった。
伊勢﨑賢治は、政府は有事への備えというが、戦争犯罪を起こした自衛隊員の実行犯のみならず命令者(上官)を国際人道法にのっとり裁く法体系がないと指摘する(伊勢﨑「戦争犯罪を裁く法体系を日本でも」)。
自衛隊には諸外国や旧軍のような軍刑法も軍法会議もない(霞信彦『軍法会議のない「軍隊」』)。


