時代の流れを見極めるためには、感度の優れた「イノベーター」の存在が欠かせません。消費者を価値観や消費行動によって、イノベーターをはじめとする5つの型に分類し、市場に商品やサービスが浸透していく流れを分析した「イノベーター理論」は、商品戦略を考えるうえでの重要なフレームワーク。マニアックな料理にもかかわらず、サイゼリヤで販売中止するほどの人気となったラムの串焼き「アロスティチーニ」の裏側にも、じつはイノベーターの存在があります。

「ラムの串焼き」の生産が追いつかず、販売休止に

サイゼリヤに「アロスティチーニ」というラムの串焼きがあるのをご存じでしょうか。

イタリアのアブルッツォ州の伝統的な料理です。日本ではメジャーな食べ物ではないですが、サイゼリヤでは一時は生産が追いつかず販売休止したほどの、人気商品となっています。

私は毎年必ずイタリアを視察で訪れ、アロスティチーニのような、日本人がまだ知らないイタリアの料理や食材を見つけては、メニューに取り入れるということをしていました。それはなぜか。今回は、サイゼリヤの「商品戦略」についてお話ししましょう。

商品戦略を考えるには、まず自社で行っている事業の位置づけを確認する必要があります。商品や事業には、導入期、成長期、成熟期を経て、やがて衰退期に入るというライフサイクルがあります(図4-1)。

サイゼリヤがどこに位置しているかといえば、成熟期の前半。この位置で狙うべきなのは、市場規模における緩やかな成長です。

利用者数、離脱者数、そして「イノベーター理論」

成長期にあるサービスや商品は、利用者の数がまだまだ伸びていく途中です。

しかし、じつは離脱者の数もこれからどんどん増えていく傾向にあります。そのため、既存顧客を離脱させない工夫や施策と同時に、新規顧客を増やすための新しい手も打っていく必要があるのです。

その際、多くの経営者は成長曲線だけを見てしまいがちですが、それでは不十分です。

レストラン業では、同じ人でも繰り返しサービスを利用することができます。高い頻度で通ってくれる常連のお客さまもいれば、通わなくなってしまうお客さま、つまり離脱者もいますから、新規の客数を把握するには、離脱者数も見る必要があります(図4-2)。

そこで私が参考にしたのが、イノベーター理論です。

イノベーター理論とは、新しい商品やサービスの、市場への普及率を表したマーケティング理論です。1962年にアメリカ・スタンフォード大学の社会学者エベレット・M・ロジャース教授(Everett M. Rogers)によって提唱されました。

いわゆる「インフルエンサー」にあたるのが、アーリーアダプター

イノベーター理論では、商品が普及する過程における、購入するタイミング別に消費者を5つのタイプに分類します。タイミングが早い消費者から順番に、「イノベーター」「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」「ラガード」と呼びます(図4-3)。

「イノベーター」は最も早く商品を購入する層のこと。市場全体の2.5%を占めていると考えられています。情報に対する感度が高く、新しい商品を積極的に購入する好奇心を持っているのが特徴です。「目新しい」という点に価値を感じる傾向があります。

「アーリーアダプター」は、世間や業界のトレンドに敏感で、常日頃からアンテナを張り情報を収集しています。

アーリーアダプターは、単純に新しさを求めるというわけではなく、自分が良いと判断したものを購入する点が特徴です。市場全体の13.5%を占めていると考えられており、いわゆる「インフルエンサー」と呼ばれる人たちがここに当てはまります。

「アーリーマジョリティ」は市場全体の34%を占めており、わかりやすく良い商品を求めます。流行に乗り遅れたくないという気持ちも持っていて、話題の商品に反応する傾向にあります。

先ほどのアーリーアダプターは、自身の周囲にいる人々に対して、商品の情報を伝える性質があります。一方、アーリーマジョリティにとって、口コミや他者の評価は、購入するか否かの重要な判断材料になります。そのため、アーリーアダプターはアーリーマジョリティに大きな影響力を持つと考えられます。

経営というのは、「思いつき」と「思い切り」がすべて

「レイトマジョリティ」は新しさに対して消極的な層で、こちらも市場全体の34%を占めていると考えられています。

たとえば、ランチでいつも同じものを注文するのがレイトマジョリティの特徴です。面倒なことを嫌うので、単品でいろいろと頼むよりも、セットで一気に注文するほうを好みます。

ただし、同じ人でも時間帯によって、セットの注文を好むレイトマジョリティになったり、いろいろ試したいアーリーマジョリティになったりすることもあります。ランチは定食をぱっと頼んで、夜は単品でちょこちょこ注文なんていう人、みなさんの中にもいらっしゃるのではないでしょうか。

「ラガード」は最も保守的で、新しい物に対して全く興味を持たない層のことです。

ある調査をみると、16%程度の人たちはファミレスを利用しないという結果がありました。イノベーター理論でもこの層は市場の16%を占めるとされていて、ぴったり合っています。この人たちに対してはどういう商品戦略を取ってもサイゼリヤにはこないと判断できます。

取るべき商品戦略、つまりどのような料理をどのように提供するかは、これらのタイプによって異なります。その際、「アーリーアダプター」までだけだとマスが取れないので、市場で大きな割合を占める「アーリーマジョリティ」をいかにつかまえるかが鍵となります。

そのためにはわかりやすく「うまい、安い」を提供すればよいのですが、私がとったのはアーリーアダプターを狙う戦略でした。

先ほど述べたようにアーリーアダプターは、アーリーマジョリティに大きな影響を与えます。つまり、アーリーアダプターがアーリーマジョリティを連れてきてくれるのです。

冒頭でお話ししたアロスティチーニをはじめとする「日本人がまだ知らないイタリア」シリーズは、アーリーアダプターを狙った戦略でしたが、ニッチさゆえにヒットに結びつくかが疑われる商品でした。ところが結果として、大変なヒット商品となりました。

理由はSNSです。多くのインフルエンサーがSNSに投稿してくれて、バズったのです。

やや乱暴な言い方かもしれませんが、経営というのは「思いつき」と「思い切り」がすべてです。ロジックだけで、経営方針を決めている経営者はいないでしょう。

最初にあるのは、おそらくは勘です。しかし、勘だけでは説明できないから、ロジックやフレームワークで戦略を確認して、納得できる根拠を見つけるのです。

根拠があれば、経営に思い切りがでます。思い切りがない生半可なやり方では、たとえ論理的に正しい戦略であっても、大抵はうまくいかないものです。

(構成=冨田ユウリ 図版作成=大橋昭一 撮影=葛西亜理沙)