サイゼリヤのような、本社に企業活動を集約させ、店舗にはオペレーションに専念させるという多店舗展開の経営手法は、アメリカで生まれました。ファミリーレストランなどの飲食店のほか、スーパーマーケットをはじめとする小売業で、この経営手法が使われています。しかし、同じ経営手法を用いても、成功しているチェーンと、潰れてしまうチェーンがあります。今回は、チェーンとして生き残るための商品戦略と、グラフの使い方をご紹介します。

生き残っている店には、ある“共通点”がある

飲食業において、商品の価格設定は非常に重要です。

私は毎年アメリカのロサンゼルスを訪れ、様々な店の商品価格の構成について調査をしていました。テーブルレストランやファストフード、カフェなどの飲食店はもちろん、飲食以外にも、ウォルマートなどのディスカウントストアやホールフーズマーケットといったスーパーマーケットやショッピングセンターなども回って、ひたすら価格や商品の入れ替わりを調べるのです。

毎年同じ店を調査していると、前年はあったけれどその年にはもう潰れてしまっている店もあれば、残り続ける店もあります。

このロサンゼルスでの定点観測を通して、生き残っている店にはある“共通点”があることがわかりました。それは、その店がどういう価格帯の店なのか、お客さまにしっかりと印象づけられているということです。

つまり、「あの店は安い店」「ここは高い店」と価格帯のイメージをお客さまに与えられている店は、残り続けることができているのです。

これらの飲食店やスーパーマーケットで使われているのは、「チェーンストア理論」と呼ばれる経営手法です。チェーンストアの経営を成功させるためにアメリカで生まれたやり方で、本社に企業活動を集約させ、店舗にはオペレーションに専念させるという手法をとります。

この理論ではまさに、お客さまにわかりやすく価格帯のイメージをつけることが大切であるとされ、安い店としてチェーン展開するなら安いものだけ、高い店とするなら高いものだけを商品として打ち出します。

安いものから高いものまで幅広く取り揃えてしまうと、お客さまはその店をどういう使い方をすればいいか迷ってしまいます。つまり、安くて美味しいものを提供するサイゼリヤのような店では、「安い店」としての認知を、とことん進める必要がある。高い価格帯の商品を置いてはならないのです。

同じように、高い店としてチェーンストアの認知を進めるときは、安い価格帯の商品を置いてはいけません。アメリカの百貨店チェーン、ニーマン・マーカスは、高級品を多く扱うことで知られます。1907年創業の老舗百貨店で、実際、置いているのは高い商品ばかりで、安い商品を見たことはありません。

明確なピークがないと、お客さまへの印象づけが弱くなる

サイゼリヤを含むファミリーレストラン3社の単価と商品数を比較してみました。横軸が単価、縦軸は商品数です。このグラフのA社が、サイゼリヤです(図3-1)。

サイゼリヤは低価格帯のファミリーレストランとしてお客さまに認識してもらいたいので、できるだけ安価、グラフでいうと左のほうにピークがくるのがよい状態といえます。

このグラフを作成した時点ではまだ明らかなピークはなく、101円か500円にかけてほぼ横一直線となっているため、もっとピークを左側に寄せてはっきり尖らせる必要があります。明確なピークがないと、お客さまへの印象づけが弱くなってしまいます。

C社の場合はサイゼリヤに比べ、ピークがやや右に寄った形で、201~300円と401~500円のところで、山ができています。サイゼリヤよりも少し価格が高いブランドとして、お客さまには認識されることとなります。

201~600円にかけて、緩やかな山ができているのがB社です。明確なピークもなく、中途半端な印象となり、チェーンストア理論においては最もよくない状態といえます。

ファミリーレストランの品目数としては、80という数は現実的

次は会社ごとの総品目数を比較しやすいように、積み上げの棒グラフにしてみました。横軸が会社、縦軸は商品数です。会社ごとに商品の絶対数で比較することができます(図3-2)。

B社は圧倒的に品目の総数が少ないことがわかります。サイゼリヤより30品目ほど少ない。少ない商品数で客数を維持できていれば理想的ですが、この品目数になるのには、おそらく別の理由があります。

この時期、B社は出店数で伸び悩んでいました。キッチンへの負荷が大きく、品目数を増やせない状況だったと思われます。調理工程として火を扱うメニューなど手間がかかる商品が多く、なかなか品目数を増やせずにいたようです。

実際、このグラフから10年後、3社のなかで、B社の店舗数の伸びが最初に止まりました。そのことから考えても、この品目数は、ファミリーレストランとしては絞りすぎていた可能性があります。

アメリカの、同じようなファミリーレストランの品目数もおおよそ80品目です。そのことからも、この80という品目数は、ファミリーレストランの品目数としては、現実的な数値と思われます。

ミラノ風ドリアをやめるか、もしくは値上げをすべき?

ここからはA社、つまりサイゼリヤとC社の価格を比較してみましょう。さきほどのグラフは全品目を積み上げたもので、差異がわかりにくいので、品種別で比べてみます(図3-3)。

最も差が出たのが、軽食商品でした。この分野において、サイゼリヤは完全に左寄りのグラフとなっています。C社と比較して、お客さまに対し、より安いブランドであると訴求できていることがわかります。

いちばん左の201~300円は、サイゼリヤの代名詞であるミラノ風ドリアです。また、この当時のサイゼリヤでは、300円台には商品はありません。これが意味するのは、何か。ミラノ風ドリアの290円は、安さを売りにするサイゼリヤ内においても、とんでもない価格設定だったということです。

そのうえで、サイゼリヤのそれぞれの軽食商品を、1カ月の出数と売り上げで比べてみましょう(図3-4)。

棒グラフは、それぞれの価格帯の1カ月の出数、折れ線グラフは売り上げを示しています。ミラノ風ドリアは、いちばん左の価格帯に含まれます。グラフではわかりませんが、じつはこの価格帯で出数の8割を占めており、数としては2位の商品の約3倍です。一方、売り上げで見ると、301~400円の商品と同等になり、さらに利益となると、逆転します。

じつは、ここが重要なポイントとなります。

周りからはよく、それならミラノ風ドリアをやめるか、もしくは値上げをすべきと言われるのですが、それは店舗数をそれほど増やさない場合の考え方です。

店舗をどんどん増やしていくチェーンストアでは、指標として重要視すべきは、客数です。客数が伸びるから、店舗が増やせる。店舗を増やせるから、購買力が強化され、本社や工場や店舗といった資産の固定比率を大きく低下させることができます。それにより、マスならではの利益を享受できるのです。

もし、ミラノ風ドリアをやめれば、大変な数のお客さまを失うことになり、店舗数を維持することもできなくなるでしょう。

結局、中途半端ではいけません。お客さまにとって自社がどういう店なのか、特徴をはっきり示すこと。方向性が絞れたのであれば、お客さまにインパクトを与えられる思い切った手を打つこと。それこそが戦略であり、経営なのです。

(構成=冨田ユウリ 図版作成=大橋昭一 撮影=葛西亜理沙)