それ以上にマークイットでは苦戦しました。金融市場は『つくったら売れる』状態で、誰も危機感を持っておらず、海外では飛ぶように売れているのに、情報はタダという意識が強い日本では相手にしてもらえない。風向きが変わったのはサブプライム以降。08年からの2年間で、日本の金融機関のほとんどと契約しました。ところが金融危機により情報の重要性が認知され、会社が世界的に大きく有名になるにつれて、情報よりデータ販売の利益を重視する株主たちの意向を優先する状況が増えた」

給料を犠牲にして飛び込んだのに、自分のフィロソフィーと会社の現状が一致しなくなっていた。09年に退社したあと、イタリアで趣味の声楽のレッスン、食べ歩きを1年間楽しんだ。

「利益を考えれば居酒屋やラーメン店のほうが儲かりますが、重要なのは、お金ではないところで、どれだけ自分のこだわりが入れられるか。シンガポールはビジネスの面ではニッチだらけで、成長余地も大きい。その意味で新しいものが好きな自分にぴったりです。気をつけなくてはならないのはやはりバブルなのと、よくも悪くも拝金主義的で、お金が中心になりがちなところ。サービス精神を丸出しにして何かやろうとすると、それにあやかろうと、つけ込んでくる人もいます。でも、つけ込みたい人は、つけ込んだらいい。お金でなく、いまは自分の飲食事業と人脈への投資こそが、この世で最高の投資だと思っています」

(文中敬称略)

ラ・オペラグループ オーナー 水谷克己
1964年生まれ。慶應義塾大学卒後、88年にモルガン・スタンレー証券入社。キダー・ピーポディ、ドイツ銀行を経て、98年、トロント・ドミニオン証券の中核メンバーとしてデリバティブ部門の立ち上げに参画。2004年から09年まで、デリバティブ商品の評価会社であるマークイットの日本支社長を務め、現在はレストラン3軒のほか、ジャズクラブとワインバーを経営。
(村上 敬=構成 葛西亜理沙=撮影)
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