今すぐ決めてもらいたいのに、決断に何日もかかる人。すぐ行動してもらいたいのに、動き出しの遅い人。そういう人と一緒に仕事をしていると、こちらの予定も立てづらいし、イライラが募ってストレスになります。職場に一人だけ仕事のテンポが遅く、他のメンバーに迷惑をかけてしまう人に、早めの決断を促すにはどうすればいいのでしょうか。職場にありがちなシーン別に対処法を解説します。

上司との関係性が悪いと、優先順位が低くなる

新しいビジネスアイデアを企画書にまとめて上司に提出したものの、引き出しの中にしまい込まれたまま返事がもらえない――そういった経験をした人も少なくないはずです。

さっさと上の人間に意見を聞けばいいのに、それができない上司に、優柔不断さを感じ、意気地のなさを嘆きたくなることもあるのではないでしょうか。

そんなチキン上司に物事を決めてもらったり、動いてもらったりするにはどうしたらいいのでしょうか。大切なのは、いくつかの観点から、適切な方法を探ることです。

まず一つ目は、本当に上司だけの問題かどうかを見極める必要があります。人間関係は相互作用ですから、ふだんの関係性を考慮に入れる必要があります。

もしも上司が、ふだんからあなたのことを快く思っていないなら、いくつもの案件からあなたの提案を検討する際の優先度は低いでしょう。それが原因で動いてくれないのなら、上司との関係を修復する必要があります。

二つ目は、あなたが提案した内容に、上司がまったく関心がないというパターン。関心がないから後回しにされていることも十分考えられます。そういう場合は、上司が強い関心を寄せている話題にリンクさせた内容に変えるといった対応が必要です。

簡単な文章さえ理解できない上司が増えている

実はもう一つ、知っておいてもらいたいことがあります。それは、上司がその企画書の内容を理解できていない可能性があるということです。意外に思うかもしれませんが、文章の読み書きがままならない人が、企業の中にもいるのです。

最近の調査結果で、中学生のうち教科書が読めない生徒が半数を超えていることがわかっています。また読書しない子どもや若者が増えていますが、ついに大学生の半数以上が1日の読書量がゼロになっていることも明らかになりました。

最近では、就活のエントリーシートも自分では書けず、大学の職員が代わりに書いたり、教員が手取り足取り指導をしたりすることが当たり前になっているようです。

何年か前にある企業の人から聞いた話ですが、採用時のエントリーシートにしっかりとした意見がまとめられていたため採用した学生が、簡単な実務的文章さえまともに書けない人だったというようなケースが増えているとのことでした。ということは職場にもすでに簡単な文章でさえきちんと読解できない人がいても不思議ではないのです。

他方、エリート中学の受験をめざす小学生の模擬試験や入試問題に、私が書いた新書の文章が多数使われています。新書は、知的な大人の読者を想定してまとめられていますが、小学生がそれを読み解いているのです。

このように学力の二極化が私たちの想像以上に進んでいる社会構造の中で、文章が読めない人が急増しており、もはや管理職になる年代にも読解力の乏しい人がいる可能性は高いのです。そういう上司にわかってもらうには、表紙にわかりやすい要約をつけたり、内容を図解したり、かみ砕いたりしてプレゼンするなどの工夫が必要です。

モチベーションが低い同僚には危機感を持たせる

仕事に対してモチベーションが低い人にも注意が必要です。たとえばチームプロジェクトの中で一人だけ進捗が遅い同僚がいたとします。その人のせいで他のメンバーが迷惑している場合、どのように対処すればいいのでしょうか。

欧米企業なら即刻クビですが、日本企業ではそうはなりません。本人も、それでも何とかなるだろうという甘えがあるはずです。

あなたがその相手と親しい間柄なら「期限までにやらないと、プロジェクトから外されるぞ」などと、危機感を持たせてあげることが必要でしょう。

大して付き合いのない相手なら、上司に掛け合って個々の社員の働きをポイントで評価してもらう措置を取ってもらってはどうでしょうか。上司に「基準のポイントを取得できない場合は、外れてもらう」と警告してもらえば効果も高まるでしょう。

それでもダメなら、ほんとうにチームから外れてもらうしかありません。そうでなければ、周りがずっとフォローしなければならず、チームとしての生産性に支障が出ます。やはりやる気のない人がいると、チーム全体でもいい仕事ができません。時には厳しい措置も必要です。

優柔不断に見えてじつは有能な部下もいる

それと似ているようで、非なるケースもあります。たとえば部下に市場調査を任せてみたら、情報収集を熱心にやっているけれど、絞り込みやまとめることができず、いつまでたっても報告書があがってこないというようなパターンです。

上司としては、いつまでも調べ物ばかりやってないで、早く報告してくれとイライラするところでしょう。一般的に、さっと調べてスピーディに報告書にまとめる要領のよい人のほうが、上司としては助かるし、高評価の対象になりがちです。

しかし、この事例が先にみた同僚と違うのは、モチベーションが高いところです。私としては、このように粘り強く情報収集を続けられる部下は、大成する可能性があると思います。

たしかに要領は悪いかもしれないけれど、テーマを広く深く掘り下げることで思わぬものを見つけてくる可能性もあります。そういうタイプなら貴重な存在になりえます。

ですからこういう人材には、たとえばまとめるのがうまくて早い、要領のいい先輩と組ませるのもいいでしょう。部下は情報を集めるところで力を発揮し、彼が見つけたものを参考に先輩がうまくまとめる。そんなふうに役割分担をすれば、質の高い報告書があがってくるのではないかと思います。

このようなケースでは、イライラするよりも、上司の人材活用の妙で努力を成果につなげる仕組みを作ることが肝心です。

家庭で効率や生産性を持ち出すのは野暮

最後に取り上げておきたいのは、デパートでの洋服選びやレストランでのメニュー選びに時間がかかる妻のことです。男性からすれば、なんでスパッと決められないんだとイライラしますよね。私もかつてはそうでした。

男性の場合、物事を即断できる人が職場では高く評価されがちであるということもあって、迷う時間は無駄だと思ってしまいます。しかしそれはあくまで職場でのこと。女性は選ぶということそのものを楽しんでいるんですよね。ここを理解しないと、溝は埋まりません。

せっかく夫婦で食事をしようというときに、急いで食べてそそくさと店を出る必要はなく、楽しい時間はなるべく長くとるに越したことはありません。

そう思えば、何を食べようか、何を着ようかと想像を巡らせる時間は、豊かな時間です。たまに夫婦で出かけたのであれば、メニュー選びに10分かかってもいいじゃないですか。それこそが人生を楽しむということ。夫婦の時間に効率や生産性を持ち出すのは野暮です。

洋服売り場で迷うことを楽しんでいる妻にずっと付き合うのが苦痛なら、夫はそこを離れて好きな本を読んだり、スマホで動画やSNS、ニュースを見ていればいいんです。仕事とプライベートはスイッチを切り替えることも大切です。

(構成=大島七々三 イラストレーション=髙栁浩太郎 撮影=宇佐美雅浩)